●メンテナンスが必須に

 人間とテクノロジーの境界があいまいになるのなら、人工生命も生まれるのではないか。原作漫画や押井監督による劇場版アニメには、人工知能とネット上の大量の情報から生まれた人工生命体である「人形使い」と少佐の物語も描かれている。

 その「人形使い」のような人工生命を念頭に、ロボット「オルタ」を作っているのは、東京大学大学院教授の池上高志さん(56)だ。

「処理できないくらい過剰な情報が入ってきた場合、ロボットの内部でプログラム通りの信号処理が破綻する。それが、生命が生まれるきっかけになるかもしれない」

 と池上さんは考えている。

 つまり、過剰な情報や計算から、生命的なものが生まれるというのだ。

 センサーで周囲に反応してランダムに動くオルタを見ていると、生きているように見えなくもない。だが、実際の人と違って、相手の動作を予測して動くということをしないし、「こうしたい」という意思も感じない。思考や意思を伴ってこそ「生命」なのだと改めて思い知らされる。

 もし、オルタが生命になったとしたら、人形使いのように「意識」を持つのだろうか?

 池上さんの答えはこうだ。

「人工生命の研究者は、そうなると思っている。生命を作ったら、付随的に意識を伴う。まだオルタには足りないけれどね」

 人間とテクノロジーの融合は確実に進んでいる。だが、それと引き換えに支払わなければいけない代償もある。

 押井監督による劇場版アニメで、少佐は語っている。

「それが可能であれば、どんな技術でも実現せずにはいられない。人間の本能みたいなものよ。代謝の制御、知覚の鋭敏化、運動能力や反射の飛躍的な向上、情報処理の高速化と拡大。電脳と義体によってより高度な能力の獲得を追求した揚げ句、最高度のメンテナンスなしには生存できなくなったとしても、文句を言う筋合いじゃないわ」

 未来の人間は、どんな体で、どんな意識を持ち、どんな世界を生きていくのだろうか。

(編集部・長倉克枝)

AERA 2017年4月10日号