実力は、世界レベル。昨年10月、スイスで開催された、最新のテクノロジーに支えられた義足や義手、車いすなどを用いた障害者が競技を戦うオリンピック「サイバスロン」で決勝に進出した(撮影/写真部・長谷川唯)
実力は、世界レベル。昨年10月、スイスで開催された、最新のテクノロジーに支えられた義足や義手、車いすなどを用いた障害者が競技を戦うオリンピック「サイバスロン」で決勝に進出した(撮影/写真部・長谷川唯)
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池上さんは自らを模したアンドロイドなどを作ってきた大阪大学教授の石黒浩さんらとともに、人工生命を目指すロボットの「オルタ」を作った(撮影/編集部・長倉克枝)
池上さんは自らを模したアンドロイドなどを作ってきた大阪大学教授の石黒浩さんらとともに、人工生命を目指すロボットの「オルタ」を作った(撮影/編集部・長倉克枝)

「攻殻機動隊」が描く「未来」のテクノロジーの実現を試みる研究者たちがいる。現実はいま、どこまでSFに迫っているのか。彼らを訪ね歩いた。

 義体や電脳によって、人と機械やコンピューターの境界があいまいになり、融合して生きる世界を描く「攻殻機動隊」。未来の話のようだが、そんな時代はすでに到来していると押井守監督は言う。

「スマホって、すでに体の一部。人間はもう電脳化しているようなものですよね。スマホが頭の中に入れば、あっというまに攻殻機動隊の世界です」

 実際、攻殻機動隊に触発されて、作品に登場する技術を現実に作ってしまった研究者たちがいる。ハリウッド版「ゴースト・イン・ザ・シェル」ならこんな場面だ。

 スカーレット・ヨハンソン演じる少佐がビルの屋上に立ち、電脳通信でビートたけし演じる上司の荒巻に伝える。

「私よ。潜入開始」

 コートを脱ぎ捨て屋上から飛び降りると、体が徐々に透明になり見えなくなっていく──。

 押井監督による劇場版アニメの冒頭でも描かれた、攻殻機動隊を代表するシーンだ。東京大学教授の稲見昌彦さん(45)は、少佐の体を透明にする技術「光学迷彩」を見せてくれた。

 仕組みはこうだ。

 まず、「再帰性反射材」という素材でマントをつくる。再帰性反射材は、反射パネルなどに使われる一定の方向にしか光を反射しない素材だ。そのマントをまとい、背景となる映像をプロジェクターでマントに投影。すると、あたかもマントが透き通って背景が見えているかのように見えるため、視覚的にはマントを着た人が透明になったように見えるというわけだ。

 バーチャルリアリティーの研究をしていた稲見さんは、大学院生だったとき、先輩で現大阪大学教授の前田太郎さん(52)から「必読書」として漫画『攻殻機動隊』を紹介された。その後、立体ディスプレーの研究で再帰性反射材を使っているうちに、これを使えば攻殻機動隊に出てきた「光学迷彩」を再現できるのではないか、とひらめいたという。

●透明で意識しないもの

 攻殻機動隊は、「見たかった未来」を見せてくれた作品だと稲見さんは言う。

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