「人間そのものがアップデートされるという未来像です。少佐のような完全な義体になっていない、バトーのような移行期の人がいるのもおもしろい」
いま、稲見さんは機械やコンピューターで人間の肉体や心の能力を拡張する「人間拡張工学」を研究している。
「今後、人と機械の融合が進んでいくと、機械やコンピューターは、透明で意識しないものになるでしょう。自分の身体は無意識に動かしていますよね? それと同じで、機械やコンピューターも、無意識のうちに使える存在になっていきます」
メガネやコンタクトレンズと同じと思えばいいのだ、と。
少佐こと草薙素子のように、人間の身体の脳以外の部分を完全に機械でつくる「サイボーグ」の実現可能性はどうなのか。
電気通信大学発のベンチャー企業、メルティンMMI(東京・渋谷)のオフィスを訪ねた。
テーブルの上にあるのは女性の手のようなほっそりした指と、ほんのり赤らんだ手のひらからなる義手。手首からは何本ものケーブルが出ている。前腕部の3カ所に電極を貼り付けた人が手や指を動かすと、義手も即座に、まったく同じ動きをした。メルティンMMIが開発した義手だ。
筋肉を動かすときに出る電気信号「筋電」から意図した手の動きを検知し、無線でその動きの信号を送信して、義手を動かす。手首から先がない義手使用者でも前腕に電極を付けて力を入れるだけで、義手の指先を器用に動かしたり、物を持ち上げたり、握手したりできるのだ。
取締役CEOの粕谷昌宏さん(29)は、中学生のころからサイボーグを作るのが夢だった。粕谷さんは言う。
「素子のようなサイボーグを作るのが僕らの目標です」
脳とネットをつなぎ、人工的に意識を作る、というSFならではの設定も、脳の研究者でベンチャー企業アラヤの代表取締役CEO金井良太さん(39)は「できる」という。現在、自ら仮説を立てて課題を解く人工知能の研究を進めている。
脳の基礎から応用までを研究する金井さんが起業したのは、脳とネットをつなぐ「ブレイン・マシン・インターフェース」や意識を持つ人工知能が、今後は社会で広く使われると考えているからだ。
ハリウッド版「ゴースト・イン・ザ・シェル」では、少佐らの義体を作り出したハンカ・ロボティックス社が政府や社会に大きな影響を持つ大企業として登場する。アラヤが目指すのはそんな企業だ。