「大西さんは耳を貸さず、話し合いの途中で石塚さんにもキレていました」

 社内でマネジメントなどへの批判がある一方、これまでの好業績もあって、誰も退任までは促せなかったというわけだ。

 だが、状況は一変する。

 昨年11月8日にあった中間決算の会見で大西氏は、経営目標として掲げてきた「営業利益500億円」の達成時期を2年先送りすることを表明。理由は訪日外国人客による「爆買い」効果の減速などで、17年3月期の営業利益予想も前年比3割減と大きく悪化し始めたのだ。

 さらにこの会見で、大西氏はミスをする。利益構造を立て直すため「閉店も選択肢」とした改革案の説明で、対象になりうる四つの店名を挙げた。これが予定外の「暴露」に。閉店検討と受け取った現場は混乱し、「取引先から商品納入をやめると連絡があった」(杉江氏)という。雇用が絡む問題でもあり、堰を切ったように組合からも不満が噴出。社内の不信感が一気に強まり「退任を求める好機」(幹部)がにわかに整った。

 新宿区の本社で石塚氏と大西氏が人事について話し合ったのは3月4日。石塚氏が社内の混乱を収めるために「役員の刷新」を提案すると、大西氏は自ら辞表を書くことを決めたという。

 長引く消費不振のなか、百貨店各社はショッピングセンター化や、業態を超えた提携で利益を確保。一方で大西氏はそんな流れに背を向け、「百貨店として、お客さまのニーズに応えきれていない」と言い続けてきた。他の百貨店は「雑貨売り場」を増やすが、自ら首を絞めた中間決算会見でも、伊勢丹新宿本店の「婦人服売り場」の拡充を表明。「我々がやらなければ、ファッションが廃れてしまう」と言い放った。そこに見えたのは、百貨店マンの「矜持」だ。

 横並びを嫌い、高い理想を掲げた「大西節」。消えるのは改革者の灯だけではないのかもしれない。(朝日新聞経済部・和気真也)

AERA 2017年3月27日号