アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回ははとバスの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■はとバス 観光バス事業本部 運輸部 運転課 専門課長 角舘淳(48)
もう15年以上も前のことになるだろうか。東北1泊2日の旅を担当したときのことだ。ある母と娘が、そのツアーに参加していた。母は足が悪く、娘がサポートしながら、ゆっくりとしか歩くことができない。
「ごめんなさい、遅くて」
母はバスの乗り降りのときに、何度も謝ってくる。運転していた角舘淳=写真下=はそのつど、「いいんですよ」と恐縮しながら答えた。
いくつかの観光地を巡り、ホテルに着いたとき、その母はこう言ってくれた。
「運転手さん、ありがとう。いつもは車酔いをするんだけど、今日はしませんでした」
その言葉は今も、仕事をするうえでの指針になっている。
「お客さまに声をかけることや、安全な運転はドライバーができるサービスですが、それ以上に、乗り物酔いしないスムーズな運転が最大のサービスだと思うんです」
お金を払っているお客さまに「ありがとう」と言ってもらえる、数少ない仕事の一つだとも思う。だからこそ、できる限りのサービスを心がける。
高校卒業後、ガソリンスタンドでアルバイトをしながら、観光バスの運転手をめざして21歳で大型2種免許を取得。東京都町田市内を走る路線バスの運転手となり、経験を積み、23歳で、はとバスへと転職した。
今は課長として、約160人のドライバーをまとめる立場。事故防止の徹底、事故があった場合の指導、新しいツアーでのルート確認や、ツアーが安全確実に実施できるかの検討をこなしつつ、時にハンドルを握っている。
「今は東京五輪の開催が楽しみですね。自分たちのホームグラウンドですから」
1998年の長野五輪では、関連ツアーなどが数多く組まれ、それこそ目の回るような忙しさを経験した。東京もそうなるはずだ。ベテランドライバーならではの経験を生かしつつ、楽しみたいと考えている。
(文中敬称略)
(編集部・大川恵実)
※AERA 2016年11月7日号