乱発される大統領令で混乱が続くアメリカ。ただの「混乱」で済むのはいまのうち。騒動はいずれ、自由と革新の国の活力をそぐことになるだろう。
「これは宗教の問題ではない。テロの問題であり、わが国を安全に保つためだ」
トランプ大統領は、イスラム世界7カ国からの90日間の入国禁止を決めた大統領令への批判にこう反論した。
7カ国とはイラン、イラク、シリア、スーダン、リビア、イエメン、ソマリア。大統領令で7カ国を挙げているわけではなく、オバマ政権下で「ビザ免除対象国」から外され米国への入国にビザ取得が義務づけられた国が対象だ。トランプ氏自身、
「大統領令で触れた7カ国はオバマ政権が『テロの源泉』として選定した国々と同じだ」
と説明している。
しかし、過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロが起きている国からの入国についてビザを免除することをやめてビザ取得を求めることと、審査を経て正式にビザを取得している者も拒否する制裁的な「入国禁止」とすることは、全く異なる措置である。
トランプ氏は1月20日の就任演説で、「イスラム過激派テロの根絶」を外交・安全保障の最優先課題に挙げた。今回の大統領令はその具体化という位置づけだろう。
●イスラム・フォビア
しかし、これを「テロ対策」として見ればさまざまな疑問が出てくる。
まず、「入国禁止」になった7カ国の出身者がこれまで米国でテロを犯した例はないということだ。2001年9月の米同時多発テロの実行犯19人のうち、15人はサウジアラビア人、他はエジプト人、アラブ首長国連邦(UAE)人、レバノン人である。
入国禁止にサウジアラビアやエジプト、UAEが含まれないのは、これらの国々ではトランプ氏がビル開発やホテル事業などのビジネスを行っているためではないか──。米英メディアからは、そんな報道も出ている。
イラクでは米国が現地の政府と協力してIS対策をとっている。なのにそのイラク人を丸ごと「入国禁止」にすることは、米国とともにISと戦う人々を、ISと一緒に排除することになる。「テロと戦う」というなら、イラクのようにテロから逃げてくる人々への共感や支援が必要なのに、「入国禁止」では逆ではないか。
トランプ政権の「入国禁止令」から浮かび上がるのは、「テロとの戦い」ではなく、