「トランプ氏との距離の取り方も上手で、父親が暴走しそうな時には冷静な忠告をしてくれると期待したい。もちろん、一族の中ではトランプ氏への影響力が最も大きいだろうから、逆に暴走を加速させることもできる人だ」

 政権発足を間近に控えた今月中旬、トランプ氏が指名した閣僚候補の人事承認を得るため公聴会が米議会上院で開かれた。新大統領が徹底的に敵視する米マスコミ各社の人事報道を次々と覆す登用を繰り返した新閣僚の顔ぶれは、ビジネス界(特に金融業界)と軍関係者を重用した金軍複合体。「しがらみに縛られる職業政治家に正しい政治はできない。それができるのは経験豊富なビジネスマンだけだ」などと強調してきたトランプ氏らしい選択だった。

●重要閣僚と不一致も

「これまでで最も偉大な閣僚たちが集まったと思う。そうした声を多くの人たちから聞く。人々はとても喜んでいる」

 今月11日の記者会見でトランプ氏がそう評価した新閣僚たちだが、上院での公聴会ではトランプ氏の考えと一致しない発言も出た。イメージ先行で敵味方を判断しがちなトランプ大統領と異なり、現状を踏まえた現実的な見解が新閣僚の一部から示されたからだ。

 米石油大手エクソンモービル前会長で国務長官のティラーソン氏は、トランプ氏が離脱を主張する環太平洋経済連携協定(TPP)について「反対していない」と表明。トランプ氏が関係強化を訴えるロシアについても「今のロシアは危険をもたらす」などと批判した。ビジネスを通じて自身もロシアとの関係が深いティラーソン氏だが、同国を警戒する議会や国民の感情を考慮した形だ。

 マティス国防長官は「米国とアジア太平洋地域の同盟国の安全保障上の利益を守る米国の決意は疑いがない」と述べ、トランプ氏による「敵視発言」が続いていた日本などの友好国を安心させた。テロ対策としてトランプ氏が理解を示す「水責めのような強い対処」についてセッションズ司法長官は「水責めなどの拷問は非合法」と切り捨てた。

 こうした発言について「承認を得るため」(ワシントン・ポスト紙)など厳しい見方も多い。ただ、どれも重要閣僚の発言による「不一致」だけに、政策に疎いトランプ氏を正しい方向に導く希望にもなりうる。(編集部・山本大輔)

AERA 2017年1月30日号