再チャレンジのきっかけは、その後スロベニアの登山家が登頂に失敗したという一報だった。

「彼を応援する気持ちと同時に『やっぱり自分たちが最初に登りたい!』という思いがわき上がった。メルーにまだ強い気持ちを持ち続けていることを、3人が再確認したんです」

 映画は彼らが11年に再びメルーに挑戦するまでを追う。危険を冒しても登り続ける、その原動力とは何だろう?

「やはり『誰よりも最初に登頂する』ことは大切です。美しい景色やおいしい空気、仲間との連帯感などさまざまな理由があるけれど、なにより登山は僕に生きる目的を与えてくれる。山へ向かうことは常に『いまの自分を超えられるか?』という、挑戦でもあるんです」

 登山シーンだけでなくそれぞれの家族へのインタビューなど、人間ドラマの深みも映画の見どころだ。それには共同監督で妻のエリザベス・チャイ・バサヒリィの存在が欠かせなかった。

●妻の力で観客賞に

「彼女は有名なドキュメンタリー監督で、数々の素晴らしい作品を撮ってきた。彼女がいなければ、これは単なるアウトドア映画にすぎなかったでしょう。彼女がこの映画に客観的な視点を与えてくれたんです」

 二人の出会いは11年。ジミー氏の講演に彼女が来たことがきっかけだ。本作を制作中の13年に結婚、1男1女に恵まれた。「もう危ないところに行かないで」と言われたりしない?

「それはありません。彼女自身、とても自立した人なので」

 さすが山男の妻だ。(ライター・中村千晶)

AERA 2017年1月23日号