広井良典さん(ひろい・よしのり、55)/京都大学。1961年生まれ。東京大学教養学部卒業(科学史・科学哲学専攻)。千葉大学教授を経て2016年から現職 (c)朝日新聞社
広井良典さん(ひろい・よしのり、55)/京都大学。1961年生まれ。東京大学教養学部卒業(科学史・科学哲学専攻)。千葉大学教授を経て2016年から現職 (c)朝日新聞社

 2016年の新語・流行語大賞は「神ってる」。“聖地巡礼”“パワースポット”がにぎわいを見せ、神様が身近にあふれる。3・11から6年、一人ひとりがそれぞれの形で宗教と向き合う時代。日本の宗教にいま、何が起きているのか。AERA 1月16日号では「宗教と日本人」を大特集。現代の宗教最前線について、京都大学こころの未来研究センター教授の広井良典さんに寄稿してもらった。

*  *  *

 私は大学の講義やゼミで死生観をめぐる話題を毎年取り上げている。ここ10年ほど、そうしたテーマへの学生たちの“食いつき”はかなり強く、個人差はあるものの、死生観や宗教についての若い世代の関心の高さを痛感してきた。宗教と幸福、自殺予防との関係や、アニメの聖地などを卒論のテーマにする学生もいる。

 全国に8万カ所以上存在する神社を自然エネルギーなどと結びつけ、地域コミュニティーの拠点として再生していく──。私はそんな「鎮守の森コミュニティ・プロジェクト」をささやかながら進めている。ちなみにお寺もほぼ同数で、いずれもコンビニの数(5万強)より多い。各地の神社などを訪れると、意外にも若者の姿を多く見かけることを印象深く思ってきた。

 いわゆるパワースポットブームといったこととも関連するだろうが、現在の若い世代の間に、死生観や宗教を含めて従来は“非科学的”とされてきたような事柄への関心が高まっているのは確かなように思われる。

●伝統的死生観を再評価

 こうした状況は、時代の構造的な変化と深く関係している。すなわち、高度成長期に象徴されるような経済の「拡大・成長」の時代には、物質的な富を拡大することに人々の関心は集中し、死生観などといったことは脇にやられ、半ばタブーとされた。いまは経済が成熟してモノがあふれる時代となり、高齢化も着実に進む中で、物質的な次元を超えた話題への関心が強まっているのではないか。

 やや大づかみな整理をすると、私は日本人の死生観は次のような3層構造になっていると考えている。もっとも基底にあるのは「原・神道的な層」で、これは“八百万(やおよろず)の神様”やジブリ映画にもつながるような、自然の中に単なる物質的なものを超えた何かを見いだすような世界観だ。2番目にあるのが「仏教的な層」で、これは涅槃や空といった観念とともに、より抽象化ないし理念化された形で死や生を理解する枠組み。そしてもっとも表層にあるのがいわば「近代的ないし唯物論的な層」で、これは端的に“死=無”ととらえる。

次のページ