日本HBOCコンソーシアムの資料によると、日本人一般女性が生涯で乳がんになる確率は約9%だが、BRCA1またはBRCA2遺伝子に変異があると41~90%になる。卵巣がんについても、日本人一般女性の生涯発症率は約1%だが、遺伝子に変異があると8~62%になる。アンジェリーナ・ジョリーが調べたのも、この遺伝子だ。

 HBOCの特徴には、40歳未満で乳がんを発症する▽両方の乳房でがんが発症する▽片方の乳房で複数回発症する▽乳がんと卵巣がんの両方を発症する、などがある。検査でHBOCと診断された場合、例えば現在は乳房の片方だけに腫瘍(しゅよう)があるが、将来的にはもう片方にも腫瘍ができるリスクが高いとして、両方の乳房切除も検討される。

●家族の病歴も徹底調査

 HBOC検査を前にしたカウンセリングでは、最初に家族の詳細な病歴を調べる。親、祖父母、それらのきょうだいについて、乳がんや卵巣がん、あるいは他のがんを発症した人がいるか。発症したのは何歳かなど、できるだけ情報を集める。こうすることで、遺伝的な影響が強いか判断でき、遺伝学的検査を受けるのが妥当か、相談者自身が考えられるようになる。

 さらに、検査結果が陽性(遺伝子に変異があること)の場合にはどのような対策があるかや、陰性でもHBOC以外の遺伝的理由でがんリスクが一般より高かったり、他の家族に陽性の可能性があったりするかもしれないことなども、検査前に説明する。その上で、相談者が検査を受けるか判断する。

 また、乳房や卵巣は女性のアイデンティティーや妊娠に関わるため、それらに対する不安に答えるのも遺伝カウンセリングの目的のひとつだ。

 カウンセリングの時間や料金は施設によって異なるが、聖路加国際病院では1時間半で3千円(予約制)。その後、HBOCの遺伝学的検査を受ければ約20万円。さらに、発症前の乳房を切除する手術には数十万円かかり、いずれも保険が適用されない。

 聖路加国際病院の場合、相談者の平均年齢は45歳。20代や70代の相談者もいる。「家族をがんで亡くしているから自分は遺伝性のがんかもしれないと不安になっている人、治療してから数年後にニュースなどをきっかけに相談に訪れる人もいます」(山中さん)。カウンセリングは基本的に一人で受けるが、希望すれば家族も同席できる。

●中絶阻止が目的でない

 もう一つの出生前検査は、生まれる前の胎児の状態を調べることで、広い意味では妊婦健診でおなじみの超音波検査も含まれる。ここで言う出生前検査では、染色体を調べるなどの遺伝学的検査を指すことが多い。

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