●入浴も立派な遊びに

 毎週水曜日、子どもホスピスから、絵本や音の出るおもちゃでいっぱいになった袋を重そうに担いで、保育士がわが家にやってくる。遊びの専門家や看護師が来てくれることもある。

 すると、母親の私に付き添いから解放される3時間が与えられる。私は散歩に出かけ、緊張を強いられる日常から自分を癒やす。

「よくできたね。いい子だ」

 この日は散歩から戻ると、息子は保育士のアビーにこうほめてもらいながら、指をパイ生地の中に入れて力を加える練習をしていた。

 自分からおもちゃなどに興味を示さない息子にとって、発達を促す訓練として、一つひとつの運動は、誰かが手を添えながらでも動かしていく必要がある。

 その後、二人がかりで息子を抱えて2階にあるバスルームへと運ぶ。お風呂が大好きな息子はそこで体を洗うだけでなく、手足で水をバシャバシャする練習をする。これも立派な遊びになっているのだ。

 バスタイムが終わると、私は保育士にお茶を入れ、おしゃべりするようにしている。

 ミュージックセラピストのセーラも週に1回、わが家を訪れてくれる。息子が鈴やキーボードなどの楽器を鳴らすのに合わせ、彼女が即興で曲を弾いてくれる。息子は音楽に特に興味を示し、多少の体調の悪さがあっても忘れてしまうようだ。
 また、いま紹介したような訪問ケアを受ける代わりに、デイケアサービスを受けることもできる。朝10時ごろ、子どもを迎えに来てくれ、2時ごろまで、庭を散歩したりセンソリー訓練をしてもらったりして過ごす。夕方から翌日の午後3時ごろまで滞在できるオーバーナイトケアもあり、夜間スタッフが一晩中、投薬も含めて子どもの世話をしてくれる。一家族に年8泊の滞在が与えられている。

 今年になってから、息子の体調は落ち着いているが、昨年は緊急搬送されることもしばしばあり、発作で泣き通しの日も多かった。そんなとき、看護師や保育士が代わるがわるわが子を抱え、手を握っていてくれたことは、大変ありがたかった。その間、横になって休ませてもらえたことは、自分の精神を安定させるのにも必要不可欠だったからだ。家族だけでなく、周りの人たちの愛情こそが子どもたちと家族への大きな力になることを、私は信じて疑わない。

●チャリティーで支援

 英国でこのような子どもホスピスを支えているのが、一般の人々の寄付を集めたチャリティー団体だ。

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