簡単な血液検査による「新型出生前診断」を受ける人が増えている。命の選別をし、障害児を排除する動きにつながらないのか、懸念も広がる。相模原事件を受け、改めてこの社会の空気を考える。
神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者の多くが殺傷された事件から、3カ月になる。
ダウン症候群(以下ダウン症)のある息子を育てる父親(43)はこう話す。
「障害のある子の親として、テロ事件と同じぐらいに受け止めている」
事件以前から、ダウン症のある人やその家族らが危機感を募らせてきたのが、妊娠中の胎児に医学的な問題があるかどうかを調べる「出生前診断」技術の新たな広まりだ。
日本では2013年から「新型出生前診断」とも呼ばれる「NIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査)」が臨床研究として導入された。調べられるのは、「13トリソミー」「18トリソミー」「ダウン症候群」という三つの染色体異常だ。
●「確定」の9割超が中絶
他の検査で染色体異常が疑われる場合に、出産時の年齢が35歳以上の妊婦といった条件をつける形で実施される。検査を受けられる医療機関は全国で74施設(16年10月現在)と限られているが、NIPTを受ける人の数は、年々増加の一途を辿る。
妊婦にとっては血液を採取するだけという負担の軽さから、胎児の障害の有無を調べたうえで産まない選択をする「選択的中絶」を助長するのではないかと懸念されている。実際、3年間で検査を受けた3万人超のうち、羊水検査などで染色体異常が確定したのが417人。その94%にあたる394人が人工妊娠中絶を選択している。
1960年代以降、超音波検査、羊水検査、母体血清マーカー検査といった出生前診断の技術が次々に開発され、「選択的中絶」が技術上は可能になった。これらの技術が「不良な子孫の出生を防止する」といった優生思想につながるのではないかという懸念もある。
テクノロジーが生み出す脅威に加え、相模原の事件を皮切りに障害のある人全般への風当たりが強まったら……。いま、ダウン症の人をはじめとする当事者たちは揺れている。
日本ダウン症協会代表理事の玉井邦夫さんは、「出生前診断という技術に関して、個々人の判断に協会として何らコメントするつもりはない」と前置きしたうえでこう訴えた。
「ダウン症のある子どもは生まれてくる必要がない、という社会的通念を作り出すような検査体制には反対します。想像してみてください。さまざまな障害のある子どもと泣いたり笑ったりしながら生活してきた子どもと、『そんな子はいなくていい』という考えを当然として育ってきた子ども。どちらに将来の社会をつくってほしいですか」