「研究費配分の問題もあるが、深刻なのは研究者を目指す人が減っていること。不安定な研究者にわざわざなろうという人は少ない。このままだと日本の科学は壊滅的で、大隅先生は、私たち研究者の声を代弁しているんです」(吉森さん)
研究を「役立つ」ものへと「選択と集中」させる傾向は、04年に国立大学が独立行政法人化して以降強まったが、その結果、日本の研究開発の国際競争力が著しく低下したと指摘される。日本の論文数はこの10年で、世界2位から5位に転落した。
大隅さんらが先行したことで、これまで日本の研究者がリードしていたオートファジー研究でも、政府が大規模に基礎研究へのてこ入れを続ける中国の研究者が急速に追い上げているという。
「日本の研究環境がこれ以上悪くなるなら、研究者の海外流出は否めません。中国やサウジアラビア、シンガポールなど他に行くところはあります。でも、研究者がいなくなったら日本の研究環境はもう立て直せない」(吉森さん)
今年で3年連続、00年以降で17人の日本人がノーベル賞を受賞しているが、多くは20~30年前の研究が対象になっている。今の研究環境が改善されなければ、いずれ「冬の時代」が来るとの危機感は研究者の間で根強い。(編集部・長倉克枝、石臥薫子)
※AERA 2016年10月17日増大号