ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった翌日、学生らの拍手で迎えられる大隅良典・東京工業大学栄誉教授(右から3人目)と妻の万里子さん/10月4日、横浜市緑区 (c)朝日新聞社
ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった翌日、学生らの拍手で迎えられる大隅良典・東京工業大学栄誉教授(右から3人目)と妻の万里子さん/10月4日、横浜市緑区 (c)朝日新聞社

 今年のノーベル医学生理学賞が、大隅良典・東京工業大学栄誉教授(71)に決まった。喜びの声とともに、大隅さんが訴えたことがある。

「研究生活に入ってから、ノーベル賞は私の意識のまったく外にありました」

 ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった10月3日の記者会見で、大隅良典さんはこう話した。

●賞には無関心だったが

「本当に賞に無関心な方です。でも、ある時から、自分が受賞することで基礎科学の重要性をアピールできるならもらってもいいとおっしゃるようになった」

 と、弟子でともに研究する大阪大学教授の吉森保さんは言う。

 大隅さんは2009年の朝日賞、12年の京都賞、15年のガードナー国際賞など受賞のたびに、基礎研究の重要性を訴えてきた。ノーベル賞受賞が決まった後も、

「一つだけ強調したいのは、私が研究を始めた時は『病気に役立つ』などと確信して始めたわけではない。基礎研究はそういうものだと認識してほしい」

 と力を込めた。なぜ、大隅さんは繰り返しそう訴えるのか。

 大隅さんが長年取り組んできた細胞生物学の基礎研究は、研究成果をすぐに事業化できる分野とはほど遠い。

 受賞理由になった「オートファジー」は、細胞が自身の成分を分解する現象だ。大隅さんは1988年からオートファジーの研究を続け、93年にオートファジーに関連する遺伝子を解明。その後、吉森さんや東京大学教授の水島昇さんらの弟子たちが、マウスやヒトなど哺乳類でもほぼ同じ遺伝子が働いていることや、神経変性疾患やがんの発症に関わりうることを明らかにするにつれて、世界中でオートファジー研究が過熱した。

 関連の年間論文数は90年代には世界で数十本だったのが00年に100本を超え、08年に1千本超、15年には5千本近くと急増した。

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