街頭で定期的に医療事故調査制度の宣伝活動をしている医療過誤原告の会。身近にある医療事故死の実態を訴える/東京都世田谷区(撮影/編集部・澤田晃宏)
街頭で定期的に医療事故調査制度の宣伝活動をしている医療過誤原告の会。身近にある医療事故死の実態を訴える/東京都世田谷区(撮影/編集部・澤田晃宏)
2013年に北九州市で起きた患者死亡事故は看護師が誤って点滴の連結管を外したことが原因。院内の看護師の4割は管が外れると知らなかったという (c)朝日新聞社
2013年に北九州市で起きた患者死亡事故は看護師が誤って点滴の連結管を外したことが原因。院内の看護師の4割は管が外れると知らなかったという (c)朝日新聞社

 医療事故の再発防止を目的に、医療事故調査制度が始まってまもなく1年。制度を活用するかは医療機関の判断次第という仕組みが、今も遺族を苦しめる。

 日曜日の夜9時を過ぎたころ、首都圏在住のAさん(67)の携帯が鳴った。義兄(65)からだった。

「俺はだまされた。同意書を求めた医師じゃない研修医が手術して、妻が気を失った」

 2015年10月下旬の朝、Aさんの姉(当時71)は、自宅でベッドから椅子に移ろうとした際に転倒し、頭を打った。近所の人に連れられ、救急搬送された。

 Aさんサイドの説明によると、病院に駆けつけた義兄に、医師は緊急性を強調した。CTで頭の異常は見られなかったが、血液検査でカリウムの数値が正常値の半分以下であることがわかったのだという。

 放置すると命に関わる不整脈に移行する可能性があるとして、早急な対処を提案された。

 手術では安全に点滴を入れるため、首の下から中心静脈へカテーテルを入れると言われた。血液検査でアルブミン値が低く、出血しやすいこともわかっていた。義兄は不安を医師にぶつけたが、医師からは「経験も十分にある。安心してください」と説明されたという。

 義兄は入院準備のために一時帰宅。約2時間後、別の医師から電話があった。

「奥さんの容体が急変した」

 急いで病院に戻ると、研修医だという、その電話の医師が執刀したと説明された。カテーテル挿入時に深く針が入り、動脈が損傷。大量出血で脈拍が感知できなくなったとして、心臓マッサージを受けていた。

 Aさんはこう振り返る。

「『首下ではなく、太ももなどから挿入する方法もあった。判断を間違ったかもしれない』と医師は言っていた」

 3日後、姉は帰らぬ人となる。病院側はこう提案した。

「医療事故調査制度を使い、当病院のなかで終わらせるのではなく、第三者を入れて、真実を明らかにしたい」

●目的は再発防止

 医療事故調査制度とは何か。1990年代末、大学病院などで医療事故が相次ぎ、医療不信が広がった。遺族を含めた議論が重ねられ、責任追及ではなく、原因究明・再発防止を目的にすることで合意し、昨年10月から施行されたばかりだった。

 主なポイントは、国内のすべての医療機関で管理者が「予期せぬ死」と判断した場合、第三者機関である医療事故調査・支援センター(以下、センター)へ報告をしなければならないと義務付けたことだ。その後、医療機関は内部調査で事故原因を調べ、その結果を遺族へ説明するとともに、センターへ書面で報告する。センターは全国から集まった報告書を整理・分析し、再発防止策を医療機関に周知することで医療安全の確保を目指す。遺族が調査を請求することはできない一方、医療機関が実施した内部調査の結果に納得ができなければ、遺族はセンターに再調査を依頼できる。

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