横浜市都筑区の「傾斜マンション」は、全棟建て替えの方向という。だが、建て替えを求める住民と補修を主張する業者の対立が長びく事例もある。
名古屋市中心部に、壁面をカバーで覆われ、誰も住まないまま10年が過ぎたマンションがある。1997年に大手ディベロッパーの住友不動産が分譲した14階建て25戸の物件だ。
入居直後から雨漏りなどが相次いだ。2002年には外壁のタイルがはがれていたり、窓枠のまわりに亀裂があったりすることもわかった。
04年にタイルをはがして補修工事を始めると、むき出しになった壁や柱に多くの施工不良が見つかる。コンクリートが十分に充填されず、空洞や、砂利がボロボロと崩れる「ジャンカ」と呼ばれる施工不良が、多数発見されたのだ。
タバコの吸い殻やコーヒー缶が出てきた空洞もあったという。抜本的な調査を要求する住民は、05年暮れには住友不動産が用意した仮住まいに移り住み、調査が始まった。
●鉄筋切断で耐震性低下
筆者も、壁や床板がはがされコンクリートがむき出しの室内に入った。ジャンカを取り除いたあとの空洞が、各階の壁や柱、梁にあった。根元までコンクリートが入っていない柱や、鉄筋のうち、縦に入っている「主筋」を束ねる「帯筋」が足元に集中している柱も多数あった。
日本コンクリート技術(東京都墨田区)の篠田佳男社長は、こう指摘する。
「鉄筋は、帯筋となる鉄筋を柱の下部に束ねて置き、主筋に沿って引き上げて固定していく。設計通りの位置に帯筋を留めなければ、満足できる強度が発揮されないが、(このケースでは)適切に配置されていない」
管理組合はあくまで建て替えを求めたが、住友不動産側は補修を前提に調査を続けた。補修方法は、建物の調査や耐震診断などを手がける建築研究振興協会(建振協、東京都港区)に評価を委託し、09年に補修方法は妥当だとする報告書が出た。
それでも建て替えを求める管理組合側に、住友不動産側は補修工事を認めるよう名古屋簡易裁判所に調停を申請し、13年暮れに補修で調停が成立する。