家族が多様化するなか、養子縁組はひとつの選択肢だ。だが、広まらない現状がある。年齢、働き方、婚姻期間……誰もが養父母の「条件」を満たせるわけではない。
子どもを持てずに悩む夫婦がいる一方、家庭を持てずに生きる子どもたちも数多くいる。
2014年の厚生労働省のデータによると、乳児院に約3千人、児童養護施設に約2万8千人の子どもがいる。なんらかの事情で生みの親が育てることができない子どもを社会で育てることを「社会的養護」という。社会的養護が必要な子のうち、法的な親子にならずに家庭で育てる「里親」のもとで暮らす子どもは約15%、法的にも実の子とする「特別養子縁組」は約0.8%に過ぎず、多くは施設で暮らす。14年の司法統計によると、特別養子縁組の成立は年間513件にとどまる。養子縁組の相談、支援をする「ベビーライフ」代表理事の篠塚康智さんは語る。
「しっかりとした養親希望者は、児童相談所も民間団体も“取り合い”です。赤ちゃんを委託したい『生みの親』よりも、養親になりたい『育ての親』が圧倒的に不足しています」
●共働きでもOKに
ベビーライフでは約200組の特別養子縁組を成立させてきたが、養親希望者で多いのは、やはり不妊治療を終えた40代の夫婦。共働き夫婦も増えたという。条件に「専業主婦」を設ける団体もあるが、篠塚さんは共働きでも可能だと考えている。
「今の時代、共働きで安定した収入を得るのは当然。働き方が調整できるなら問題ないし、会社の育休制度も柔軟になってきています。働きながらでも養子を迎えられる社会にしていくべきだと思います」
企業研修の講師をするリョウコさん(46)は、昨年、約2年間の不妊治療を終えた。30代は完全にキャリア優先の生活。管理職になって、子づくりに本腰をと思ったときは43歳になっていた。時間がないと感じたリョウコさんは病院に向かった。
「すぐに人工授精、半年後には体外受精に切り替えました」
だが、体外受精も初期段階までしかいかず、可能性は薄いと感じた。飲料メーカーに勤める夫のオサムさん(45)は言う。