パンクとビートニクとミニマル・ミュージックの幸福な邂逅が、東京・錦糸町でも実現した。日本語訳は、村上春樹と柴田元幸だ。御年69歳のパンクの女王は、言葉と音とあふれでる人間味で観客を魅了した。
すみだトリフォニーホールの大ホール(1801席、東京都墨田区)は3階席の上まで、ほぼ満杯になっていた。都内有数の良質な音響を誇り、クラシック音楽やオペラのコンサートを中心に行っているこの施設が、普段とはかなり違う、とんがった雰囲気の老若男女で埋めつくされたことに驚いた。
この日の演目は「THE POET SPEAKS」。ニューヨークの女性パンクロッカーの草分けであるパティ・スミスと、ミニマル・ミュージックという概念を開拓した作曲家、映画音楽家でピアニストのフィリップ・グラスのコラボレーションにより、20世紀アメリカのビートニク世代から登場した最も重要な詩人であるアレン・ギンズバーグとスミス自身による詩編を朗読するものだ。彼女はミュージシャンとしてデビューする前、ニューヨークのチェルシー・ホテルに転がり込んで暮らしていた20歳そこそこの時期に、この詩人と出会っていた。ギンズバーグ、グラス、スミスと、年齢はおよそ一回りずつ違う3人だが、その交友は世代の違いを感じさせない親密なものだった。奇しくも、このコンサートの前日(6月3日)はギンズバーグが生きていれば90歳を迎えた誕生日でもあった。
●村上春樹の訳文で
世界各地でソールドアウトを記録し大きな話題を呼んできたこのコンサートが日本で開催されるというニュースは、まさにファン待望のものだった。さらに今回の日本公演にあたっては、ギンズバーグ、スミスの詩編に、村上春樹、柴田元幸の両名が新訳を施す。それも事前の話題となっていたのは間違いない。