しかしこの論文は、STAP細胞が実在する可能性を示唆するものという「流言」を呼んだ。
●繰り返し現れるネット上の流言
STAP細胞を巡る根拠なき流言がネット上で広がったことは、これが初めてではない。
昨年12月と今年3月には「アメリカの研究者がSTAP現象を証明した」という情報が流れた。しかしその根拠とされた論文は、実験対象も方法も、そして結果も、小保方氏らのネイチャー論文とはまったく異なるものだった。
また今年4月には、「STAP現象が理化学研究所で再現されていた」という情報がネット上に流れた。その元になったのは2014年12月に公表された「STAP現象の検証結果」。論文不正疑惑を受けて、理研が半年以上かけて行ったものだ。
「検証結果」には、ネイチャーに発表されたSTAP論文の方法とは別に、肝臓の細胞を「ATP(アデノシン3リン酸)」で処理すると「STAP様細胞塊」が出現し、OCT4の発現がわずかに見られたとあった。しかし、そもそも対象と方法が論文と異なるうえ、その発現量もES細胞に比べればわずか。さらに、前述のキメラ法で、多能性の証明は得られなかった。つまりこの情報も、理研の報告を誤読した「流言」にすぎない。
これまで紹介した「流言」の数々は、小保方氏らの方法でSTAP細胞が本当に生成できるのかという「再現性」の有無を巡る誤解から生じたものだ。しかし、再現性を巡る問題とはまったく別次元の問題が当初からあったはずだ。小保方氏らがネイチャー論文の根拠にした研究に不正があったのではないか、という疑惑だ。
●問題の本質は研究不正の有無
ネイチャー論文では、発表直後から多くの「研究不正」(写真やグラフなどの捏造・改ざん・盗用)がある可能性が指摘された。14年3月には理研の調査委員会が、STAP論文には2点のみ研究不正があると認定したが、科学者を含む世間はそれに納得しなかった。