「保守の政治家で沖縄の痛みに寄り添う感受性をもつ人は今やほとんどいません。本土メディアも一部を除き、同様の傾向を示しています」
こう語る山田教授は、沖縄との関係をつなぐ妙案は浮かばない、と嘆息する。
「忘れてはいけない歴史が、かくも簡単に忘れられていく現実をどう考えたらいいのでしょうか。『歴史を勉強し直せ』と言うのは簡単ですが……」
●政府の対策は街路灯の増設
オバマ大統領は5月27日、安倍首相とともに広島を訪問。日米同盟の絆の強さをアピールし、慌ただしく3日間の訪日スケジュールを終えた。一連の展開を、前出の照屋教授はこうとらえる。
「橋本さんや小渕さんなら、数分間でも翁長知事と大統領の面談をセットしようと奔走したはずです。思いやりのない政治が続いていることが、沖縄の基地を不安定化させている」
米国との同盟強化を重視したのは橋本、小渕政権ももちろん、例外ではなかった。橋本氏は「普天間返還」を目玉とする沖縄の負担軽減を前面に打ち出す一方、日米ガイドライン関連法など、冷戦後の日米軍事協力の深化を怠らなかった。
小渕氏が尽力した九州・沖縄サミットをめぐっては、米国務省のスタッフが「普天間移設問題を前進させる機会」だとクリントン大統領に進言していた文書も見つかり、サミット開催を政治利用しようとした米国側の思惑も露呈している。
それでも、現政権への不信感は格別根深い。理由はこうだ。
「安倍首相は集団的自衛権の行使容認に取り組むなど安全保障政策や憲法改正に熱心ですが、日米安保は沖縄の過重な基地負担があってこそ支えられているという認識があるようには見えない」(照屋教授)
安倍政権が長期化すれば、沖縄はますます安保の犠牲を強いられるのではないか、との「恐怖心」を拭うことができない、と照屋教授は言う。
事件に抗議する県民大会は、6月19日に那覇市内で開催されることが決まった。その4日後は、沖縄戦の犠牲者を追悼する「慰霊の日」だ。沖縄では8月15日の終戦記念日よりも色濃く「戦争」を思い起こす日で、鎮魂ムード一色に包まれる。県民の心に「過去の戦争の悲劇」と「現在に至る基地被害の悲劇」が重なるのは避け難い。
政府に「沖縄の基地の整理縮小」を促す国会決議は1971年以降、繰り返し可決されている。にもかかわらず、基地は目に見える形で整理縮小されてこなかった。
照屋教授はこう主張する。
「全国の米軍専用施設の74%が沖縄に集中している異常事態を解消しない限り、根本的な解決にはつながりません」
前出の江田議員は「沖縄の人々の心を解きほぐす努力をしないと、溝を埋める糸口は見つからない」と指摘。日米地位協定について「従来の運用改善ではなく、将来の課題としてもう一歩踏み込んでいくことも大事」と述べ、米政府との改定交渉に踏み切るべきだと唱える。
沖縄県議会は5月26日、在沖米海兵隊の撤退を求める決議を初めて可決した。一方、政府が同じ日に発足させた「沖縄県における犯罪抑止対策推進チーム」で取り上げられたのは「街路灯の増設」といった施策だった。
安保体制を揺るがそうとしているのは不作為を続ける政府であって、沖縄ではない。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2016年6月6日号
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