


日米首脳会談でも、ほとんど進展がなかった沖縄の基地問題。このままでは、翁長雄志沖縄県知事の言う通り、日米安保が「砂上の楼閣」になりかねない。
「子や孫の安心、安全を守るため、大統領に直接話をさせてほしい」
沖縄の米軍属による女性遺体遺棄事件を受け、5月23日に首相官邸で安倍晋三首相と会談した翁長雄志知事が強調したのは、かねて訴えていた日米地位協定の改定に加えて、オバマ米大統領への「直訴」の要請だった。政府を通じた協議では、沖縄の現状を分かってもらえないという強い危機感の表れといえる。
しかし、政府はその思いをないがしろにした。安倍首相は5月25日夜、伊勢志摩サミットのため来日したオバマ大統領と首脳会談に臨んだ。首相は「断固」、事件に抗議したが、地位協定の改定には踏み込まず、知事と大統領との面談にも触れなかったという。一方で首相は、米軍普天間飛行場の移設について「辺野古移設が唯一の解決策であるとの立場は変わらない」と大統領に伝えることは忘れなかった。
今回の事件は、伊勢志摩サミットやオバマ大統領の広島訪問に加え、沖縄県議選(5月27日告示)や夏の参院選を控えた時期に「容疑者逮捕」という急展開を見せた。このため、政府・与党内に「できる限り早く区切りをつけたい」との思惑が強く働いたのは間違いない。
しかし、政府のこうした対応は、沖縄との亀裂を一層深める結果を招いている。
●成果出せるかはトップの心次第
翁長知事は日米首脳会談の翌日、「沖縄の民意や県民に寄り添うことに何ら関心がない」と痛烈に首相を批判した。
今では辺野古への移設とセットで語られる普天間返還だが、かつては日本の外務・防衛官僚レベルで「不可能」とされてきた。しかし1995年、米兵による少女暴行事件が発生。それをきっかけに高まった沖縄の反基地感情を抑えるため、当時の橋本龍太郎首相がクリントン大統領との会談で「普天間」を持ち出した。トップの政治判断が、返還合意という「成果」を導いた。
「これと対照的なのが今回の安倍首相の対応です」
沖縄国際大学の照屋寛之教授(政治学)はこう指摘する。
沖縄でのこれまでの選挙結果から、辺野古移設に反対する民意は明示されている。「沖縄に寄り添う」と繰り返しながら、県民の声を踏みにじり、法廷闘争に訴えてでも辺野古に新基地を造る、という現政権の姿勢は20年前の「普天間返還合意」の精神に立ち返れば、明らかに倒錯している。
なぜこうなったのか。