秘密警察がまいた嘘と秘密によって、何が本当で何が嘘か分からないまま、緊張をはらんで展開していくストーリー。オマールはナディアとの結婚をあきらめざるを得なくなり、2年後、彼女の「秘密」についての衝撃の真実を知る。その後、迎える結末はさらに劇的だ。
イスラエルの秘密警察によるパレスチナ人の拷問や取り調べの場面を描き、イスラエル批判に結び付く政治的な要素を含む。「パラダイス・ナウ」の時は「テロを肯定する映画」という非難が米国のユダヤ人組織から上がったが、この作品が米国でアカデミー賞にノミネートされたことは、単なるプロパガンダではなく、圧倒的なリアリティーと巧みなストーリー展開によって観客の心をとらえる映画として評価された証しである。
「パラダイス・ナウ」の日本上映で来日した時、アブ・アサドにインタビューをした。
「映画は政治の道具ではない。お金を払って映画館にくる観客に素晴らしい時間を楽しんでもらうためにある」と語り、続けて、「私にとって映画は抵抗の道具である」と付け加えた。二つの信念は、この映画でも貫かれている。(中東ジャーナリスト・川上泰徳)
※AERA 2016年4月25日号より抜粋