「保育園落ちた日本死ね!!!」。ブログを機に、ようやく政府が動いた。待機児童問題に詳しい、民進党政調会長の山尾志桜里さん、世田谷区長の保坂展人さん、全国小規模保育協議会理事長の駒崎弘樹さんが徹底討論した。(構成/編集部・小林明子)
山尾 小泉政権が「待機児童ゼロ作戦」を掲げてから15年。待機児童問題については、努力はするが解決できなくても仕方がないという無責任な諦観があった。数としては把握しても、それぞれの家庭にどんな問題をもたらしているのかまで想像が及んでいなかったのでしょう。昨年11月、安倍総理が待機児童が増えたことを「うれしい悲鳴」と発言したのも、そうした意識の低さからでは。私が国会質問で「保育園落ちた日本死ね!!!」と叫んだブログを取り上げたときの反応にも如実に表れていました。結果的に、ヤジや総理の対応への批判といった思わぬ方向から火がついて、ようやくこの問題が国政の重要課題としてとらえられるようになりました。
駒崎 日本で子育て関連の予算が過少だというところにも、問題意識の低さが表れています。少子化を克服したフランスや北欧は、家族関係支出の対GDP比は3%以上なのに、日本は1.3%。圧倒的に予算が少ない中で、根性で待機児童をなくそうと頑張っても、無理です。
保坂 世田谷区は2014、15年度の待機児童数が千人を超えました。16年4月は定員を1250人増やしたものの、申込者数も急増し、保育園をつくってもつくっても追いつかないというのが正直なところ。待機児童が集中している東京では、地価の高さも保育園の設置が進まない要因です。土地の賃貸料は20年間で3億円ほどかかるため、区がその約3分の2を補助する条件で事業者を募集していますが、どこまで自治体だけの財力でまかなえるか……。
山尾 政府が3月28日に発表した「待機児童解消に向けて緊急的に対応する施策について」によると、新規の予算はゼロ。それでどうやって待機児童ゼロを実現するというのでしょう。
●王道は保育士の給与アップ
駒崎 保育士の給与は13年の全国平均で月20.7万円。ハードワークかつ子どもの命の責任を負う仕事なのに、全産業平均に比べて月10万~11万円も低い。同水準にするには3400億円の追加予算が必要です。資格があるのに働いていない潜在保育士も60万人を超えており、給与を上げて少しでも多くの保育士に働き続けてもらうようにするのが正攻法なのに、緊急対策では処遇改善には言及されなかった。本当にやる気があるのか。
保坂 保育士不足の対策として、採用5年目以内の保育士に対して世田谷区が月8万2千円を上限に家賃を補助する制度は効果があります。ただ、保育は広域的な需要のため、仮に世田谷区の待機児童が激減したら引っ越してくる人が増え、保育需要が増えるといういたちごっこになる。周辺地域も同じように対策しなければならず、国が保育士の処遇改善に触れないのは不十分です。
山尾 やはり王道は、予算を確保して保育士の給与を上げること。私たちが提出している月5万円の処遇改善法案に、政治全体が正面から取り組んでほしい。それと、そもそも待機児童の数え方にも問題があります。15年4月時点で全国で2万3167人と発表されていたのに、“隠れ待機児童”が6万208人いた。育児休業を延長したり、自宅で求職活動をしていたり、東京都認証保育所など自治体が補助する認可外施設に預けたりしている場合は待機児童にカウントされておらず、合計すると8万3375人。8万人を超える待機児童を、予算ゼロでどうやって解消するんだと。数え方を自治体に任せているのも問題で、同じ土俵でカウントするのは基本中の基本だと思うのですが。