認知症の親が他人に損害を与えたとき、家族は賠償責任を負うべきか? 遺族側の逆転勝訴となった最高裁判決は、国の取り組みを促している。
2007年12月7日夕方、愛知県大府市のJR共和駅。豊橋発米原行き快速列車が線路上の男性をはね、死亡させた。当初は自殺とみられたが、その後の調べで男性(当時91)は重い認知症で要介護4と判明。同居している妻(93)がまどろんだすきに自宅兼事務所を出て電車に乗り、1駅隣で下車したことがわかった。JR東海は、妻と長男(65)に振り替え輸送の費用など約720万円の支払いを求めて訴訟を起こした。
裁判は、遺族が民法上の「監督義務者」に当たるか否かが争点になった。重い認知症など法的責任を問えない人の賠償では、監督義務者が負うと定められている。しかし、仮に家族であるだけで監督義務者に当たるとなれば、認知症の人を常に監視し、身体拘束をするなど、時代に逆行した介護を余儀なくされる可能性がある。それらは、徘徊を悪化させる原因にもなる。
1審、2審では遺族の賠償責任を認める判決が下された。だが、3月1日、最高裁はこれを破棄。遺族側の逆転勝訴となった。最高裁は、妻自身も要介護1の認定を受けており、第三者への加害行為を防止できる状況になかったと判断した。長男は20年近く同居していなかったことなどから、監督義務者に当たらないとした。
遺族の代理人を務めた浅岡輝彦弁護士は、判決後の記者会見で「遺族の主張が全面的に採り入れられた画期的な判決」と高く評価した。一方で「これで全てが解決したわけではない。今後、国は政策としてどう取り組むのか」と問題提起した。