アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は大阪ガスの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■大阪ガス 泉北製造所 タンク建設プロジェクトチーム マネジャー 山下眞輝(44)
外径約90メートル、高さ約60メートル、容量23万立方メートル。大阪城天守閣が二つ並んですっぽり入る巨大なLNG(液化天然ガス)タンクが、11月に完成する。場所は、大阪府堺市にある大阪ガス泉北製造所第一工場。山下眞輝のミッションは10年前にさかのぼる。
早稲田大学理工学部機械工学科で熱エネルギーの有効利用について学び、同大学大学院修士課程では廃熱利用の研究を進めた。
「ロマンのある理系の仕事は何やろ?と考えたとき、エネルギーの仕事に関わりたいと思いました。人の役に立てる分野だから」
貯蔵能力を向上させる目的で、高さと直径を従来より5メートル大きくした新タンクをつくるには、乗り越えるべき壁がいくつもあった。まず、建設費を少しでも安くできるよう、新材料を開発することに取り組んだ。
2006年から、鉄鋼メーカーと共同研究を始めた。マイナス160度の低温でLNGを貯蔵するタンクの素材には、鉄にニッケルを混ぜた合金を使うが、ニッケルが高価なのが悩みの種。そこで、ニッケルの割合が9%の従来材料に比べても、強度や粘り強さで劣らない「7%ニッケル鋼」を開発。世界初の製品化を実現した。
さらに、タンクを取り囲む防液堤を建てるために、24時間ノンストップで高さ44メートルまでコンクリートを流し込み続ける新工法を採用。工期を9カ月から20日へと一気に短縮。さらなるコストダウンにつながった。
「逃げない、あきらめない、めげない」
山下のモットーだ。新しいものを普及させたいという山下の熱意、エネルギーがチーム全員に伝わり、一つずつ課題に立ち向かった成果が、世界最大級のタンクとして結実した。
「自分が関わった新素材がほかでも使われるようになるのは、本当にうれしいですね」
休日には、妻と城を巡ってきた。やっぱり、強固な構造物が好きなのだ。でも今は、1歳になる娘と過ごすことが、何ものにも代えがたい楽しみになっている。
(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・西元まり)
※AERA 2015年10月26日号