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 日本語を話すジャズ・ミュージシャンと言えば、筆頭は「英語でしゃべらナイト(NHK-TV)」で流暢な日本語を披露した(マンハッタン・ ジャズ・クインテット&オーケストラの代表)デビッド・マシューズ。デイブさんとは電話で話す時も半分は日本語でOK!

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 来日回数の多いソニー・ロリンズ、ジミー・スミスやハービー・ハンコックさんなど、ステージ上から「コンバンワー」「ゲンキデスカー」「アリガトー」のワン・フレーズで聴衆に応えるミュージシャンは何人もいるけれど、デイブさんと同じくらい上手に、曲目紹介まで日本語でやってしまうのが(マイルス・バンドでも来日した)サックス・プレイヤーのケニー・ギャレット。

 ある時、

「もしもし、うちヤまさんですか?」

「ヤ」の音に外国人特有のアクセントのあるハスキーヴォイスで、電話をかけてきたのは…… ヘレン・メリル!

 日本語の歌詞で歌った録音もあって、'60年代に2年ほど日本に住んだ事のある日本通。親日家だから、ステージ上でも日本語でのやりとりで聴衆を沸かせるシーンを何度も見聞きしたし、相当の日本語を話すことは、もちろん知っていたけれど、そのヘレンさんご本人が直接、しかもいきなり携帯電話にかけてきたのだから、驚かない訳にはいかないじゃないですか。

 ぼくの日本語まで怪しくなってしまうほどにビックリした。

 1977年の来日時に初めて会って以来、ステージはもちろん、楽屋や滞在中のホテルなどでも何度となく写真を撮らせていただいた。その、たくさん撮り貯めたぼくの写真を見てみたい、と言うのがその電話の要件だった。

 数日後、ぼくはヘレン・メリル本人に見せるために、ヘレン・メリルの写真をセレクトし、ポジフィルムを見やすくするためのライト・ボックスと、ヘレンさんに差し上げる何枚かのプリントを用意して滞在中のホテルの部屋を訪ねた。

「この頃は、まだ若かったわねぇ」

「うわー、これは懐かしいわ...」

 などと、ルーペを覗きながら、思い出話も入り交じって(英語も日本語も入り混じって)時間は過ぎ…… 最後にサインを頂こうと差し出したレコード・ジャケットを、手に持ったまま、

「あなたの写真のほうがステキよ」

 と言われたのが嬉しくて嬉しくて……。

ステージでは歌の合間にぼくのカメラにチラッと笑顔をくれる事もあったし、

「綺麗に撮れましたよ」と言うと

「まぁ、もうおばあちゃんですよ!」

「可愛くて色っぽいですよ」と言うぼくに

「やめてちょうだい、あなたのお母さんの歳ですよ!」

 と流暢な日本語で返してくれるヘレンさん。

 白人ジャズ・シンガーの代表格ヘレン・メリルに向かって、「セクシー」だとか、「キュート」だとか失礼千万かも知れませんが、それを笑って受けてくれるヘレンさん、大好きです。

 "ニューヨークのため息"と言われるハスキー・ヴォイス。実に色っぽく可愛いじゃありませんか、母親の歳の女性に惚れてもいいですよね。

ヘレン・メリル:Helen Merrill (allmusic.comへリンクします)
→ジャズシンガー/1929年7月21日~ ニューヨーク生まれ。