ライター古賀史健さん(42)1973年生まれ。出版社勤務を経て、98年フリーに。多くのヒット作を担当するほか、単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』(星海社新書)も(1)美文より正文美しい言葉より、文章を組み立てる「構成」部分に力を注ぐ。起承転結にもこだわらない(2)「主張」「理由」「事実」とくに短い文章では、この3点セットがそろっているか、確認する(3)最後は音読書き上げたら、音読してリズムなどをチェックするのがベスト(撮影/今村拓馬)
ライター
古賀史健さん(42)
1973年生まれ。出版社勤務を経て、98年フリーに。多くのヒット作を担当するほか、単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』(星海社新書)も
(1)美文より正文
美しい言葉より、文章を組み立てる「構成」部分に力を注ぐ。起承転結にもこだわらない
(2)「主張」「理由」「事実」
とくに短い文章では、この3点セットがそろっているか、確認する
(3)最後は音読
書き上げたら、音読してリズムなどをチェックするのがベスト(撮影/今村拓馬)
ノートにもテーマごとに同じ色の付箋。構成の際に役に立つ(撮影/今村拓馬)
ノートにもテーマごとに同じ色の付箋。構成の際に役に立つ(撮影/今村拓馬)
日本ビジネスメール協会代表理事平野友朗さん(41)1974年生まれ。筑波大学卒。2004年アイ・コミュニケーション設立。13年に一般社団法人日本ビジネスメール協会を立ち上げる。ビジネスメール関連の著書多数(1)パーツの確認具体的な「件名」、受け取る人の「あて名」を確認。本題に入る前には「あいさつ」「名乗り」、最後には「締めのあいさつ」「署名」が必須(2)読みやすさに配慮本文は数行ごとに空白行を入れ、複数の用件や質問は箇条書きに(3)近況が距離を縮める本文の後に「追伸」として個人的な近況を書くことで、より親密な関係に(撮影/今村拓馬)
日本ビジネスメール協会代表理事
平野友朗さん(41)
1974年生まれ。筑波大学卒。2004年アイ・コミュニケーション設立。13年に一般社団法人日本ビジネスメール協会を立ち上げる。ビジネスメール関連の著書多数
(1)パーツの確認
具体的な「件名」、受け取る人の「あて名」を確認。本題に入る前には「あいさつ」「名乗り」、最後には「締めのあいさつ」「署名」が必須
(2)読みやすさに配慮
本文は数行ごとに空白行を入れ、複数の用件や質問は箇条書きに
(3)近況が距離を縮める
本文の後に「追伸」として個人的な近況を書くことで、より親密な関係に(撮影/今村拓馬)
平野さんのメールは、パッと見ても、要点がわかりやすい(撮影/今村拓馬)
平野さんのメールは、パッと見ても、要点がわかりやすい(撮影/今村拓馬)
書店員河又美予さん(42)1973年生まれ。「難解な専門書から赤ちゃん向けの絵本まで、たくさんの世界がある」ことに魅力を感じ、アルバイトを経てリブロに入社(1)短文を心がける行き交う人を一瞬で引きつけるためには、短文が鉄則(2) 説明より感情長々と説明すると、人は飽きてしまう(3)キャッチーな一言自分が初めてその本に触れたときの引っかかりを大切にする(撮影/高井正彦)
書店員
河又美予さん(42)
1973年生まれ。「難解な専門書から赤ちゃん向けの絵本まで、たくさんの世界がある」ことに魅力を感じ、アルバイトを経てリブロに入社
(1)短文を心がける
行き交う人を一瞬で引きつけるためには、短文が鉄則
(2) 説明より感情
長々と説明すると、人は飽きてしまう
(3)キャッチーな一言
自分が初めてその本に触れたときの引っかかりを大切にする(撮影/高井正彦)
下書きせずにいきなり書く。数分でウルトラ目立つPOP完成(撮影/高井正彦)
下書きせずにいきなり書く。数分でウルトラ目立つPOP完成(撮影/高井正彦)
代筆屋中島泰成さん(36)1980年生まれ。行政書士の資格を持つ、プロの代筆屋。著書に『プロの代筆屋による心を動かす魔法の文章術』(立東舎)(1)分量と温度を意識手紙の場合、1000文字程度がマックス。一晩寝かせて読み返すことで、熱くなりすぎない(2)ひらがなを増やすひらがなを多用することで、複雑になりがちな考えや、熱い思いがグッとシンプルになる(3)会話のような話し言葉で相手との距離感は、会話するイメージ。思いはできるだけシンプルに伝える(撮影/高井正彦)
代筆屋
中島泰成さん(36)
1980年生まれ。行政書士の資格を持つ、プロの代筆屋。著書に『プロの代筆屋による心を動かす魔法の文章術』(立東舎)
(1)分量と温度を意識
手紙の場合、1000文字程度がマックス。一晩寝かせて読み返すことで、熱くなりすぎない
(2)ひらがなを増やす
ひらがなを多用することで、複雑になりがちな考えや、熱い思いがグッとシンプルになる
(3)会話のような話し言葉で
相手との距離感は、会話するイメージ。思いはできるだけシンプルに伝える(撮影/高井正彦)
代筆屋の仕事は文章の考案。依頼者本人が手書きして投函する(撮影/高井正彦)
代筆屋の仕事は文章の考案。依頼者本人が手書きして投函する(撮影/高井正彦)
プロデューサー鈴木敏夫さん(67)1948年愛知県生まれ。慶應義塾大学卒業後、徳間書店を経て、89年スタジオジブリに移籍。同スタジオの多くの作品でプロデューサーを務めてきた(1)心を無に自己を抑制することで言葉が舞い降りてくる。散歩などで肉体を疲弊させると効果的(2)他人になりきるこの人ならどう書くか……と、誰かになりきって書くことを楽しむ(3)文字に凝る何を書くかと同じくらい、どんな文字で書くかにも気を配る(撮影/高井正彦)
プロデューサー
鈴木敏夫さん(67)
1948年愛知県生まれ。慶應義塾大学卒業後、徳間書店を経て、89年スタジオジブリに移籍。同スタジオの多くの作品でプロデューサーを務めてきた
(1)心を無に
自己を抑制することで言葉が舞い降りてくる。散歩などで肉体を疲弊させると効果的
(2)他人になりきる
この人ならどう書くか……と、誰かになりきって書くことを楽しむ
(3)文字に凝る
何を書くかと同じくらい、どんな文字で書くかにも気を配る(撮影/高井正彦)

出版不況下のベストセラー。ビジネスを左右するメール。一瞬で目に留まるPOP。人生を変える手紙。そして、人々を映画へと誘うコピー。達人には独自のルールがあった。(ライター・福光恵)

 こう見えて自分は「書く人(ライター)」になって数十年。「書く」ということほどむずかしく、そして恐ろしいものもないことは、身をもって知っている。そこで、「いま頃おせーよ」というツッコミ覚悟で、「書く」ことの達人たちに、その極意を聞く旅に出た。

 まず訪ねたのは、ライターの古賀史健(ふみたけ)さん(42)。「アドラー心理学」なるややこしい理論を、青年と哲人の対話というスタイルでわかりやすく説いた『嫌われる勇気』の著者のひとりだ。

 2013年の発売以来92万部を売り上げた同書のほか、インタビュー集『ドラゴン桜公式副読本 16歳の教科書』や、堀江貴文氏の『ゼロ』など、数多くのベストセラーでライティングを担当してきた。

『嫌われる勇気』のように「著者」に名を連ねた本こそ少ないが、ヒットメーカーとして、出版界では以前から知られた存在。書籍でいう「ライティング」は、著者にインタビューするなどして本にまとめることを言う。

「大切なのは、語られた内容だけでなく、その人の『声』を再現すること。執筆中は、机にその人の写真を飾り、声や表情をイメージしながら書いています。声が聞こえてくるような文章が理想ですね」(古賀さん)

●起承転結にはしない

 インタビューが終わると、本に含めたいと思った要素を付箋(ふせん)数十枚に書き出す。この付箋を並べ替えたり、足したり引いたりしながら、本の流れを決めていく。ときには編集者と一晩中、ひざをつき合わせながら構成を考えることもある。

 キモとなるのもやはり「構成」。つまり、文章の組み立て作業にあると古賀さんは言う。

「僕が思ういい文章の条件は、第一にリズム。そして文章のリズムを決めるのは、話の筋が通っているかという論理性。支離滅裂な文章では、それだけで読む人のリズムを断ち切ってしまいます。美しい言葉で飾った“美文”より、構成のしっかりした“正文”であることが大切です」

 そんな理論的で、説得力のある文章は、具体的にどうすれば書けるのか。古賀さんが大切にしているのは、文章中に「主張」「理由」「事実」の3要素を入れていくことだという。

「主張とは、核になるメッセージ。続いて、その主張を述べる理由と、理由を裏づける客観的な事実を入れていく。この3要素がそろっていると、論理的で、説得力のある文章になります」

 たとえば、「大相撲もナイター制を導入するべきだ」と主張するとしよう。これだけでは、なぜナイターなのかがよくわからない。

 そこで「平日でも、仕事帰りに見に行ける」という理由と、この理由の正当性を客観的に裏づける、「野球やサッカーもナイター制を導入している」という事実を追加する。

 確かに「相撲のナイター」は意外な主張だが、理由と事実を聞けば納得できる。古賀さんによれば、日常的に見かける短い文章でこの3要素がそろっていることは少ないという。

 さらに、論理的な“正文”をおもしろくするテクもある。「起承転結」ならぬ「起『転』承結」の構成だ。

「起承転結は、後半にどんでん返しが待っている、漫画や小説に向いた構成です。企画書やプレゼン資料などのビジネス文書では、起『転』承結として、早めにどんでん返しの驚きを持ってくる。読み手の興味を早々に引きつけ、自分の主張に耳を傾けてもらうのです」

 そして最後に、徹底的な推敲(読み返し)が必要だという。

「誤字脱字はもちろん、文章のリズムを確認するためにも、音読しながらの推敲は、絶対に欠かせない作業です。ワープロソフトで書く場合は、テキストのフォントを明朝体からゴシック体に変えてみたり、横書きを縦書きに変換したりして読み返すだけでも、違った角度から読み返すことができますよ」

●不快招くあいまい表現

 帰って、自分が書いた短い原稿をチェックしてみた。3要素、ぜんぜんそろってません……って、早く言ってよ、な思いを胸に、次の先生のところへ。

 メールの達人、日本ビジネスメール協会代表理事で、メールの書き方本も数多く出している平野友朗(ともあき)さん(41)がその人だ。

 平野さんは、企業研修やコンサルティングなどを手がけるアイ・コミュニケーション代表という本業を持ち、ビジネスの現場でメールコミュニケーションの極意を身につけてきた。

 聞けば、ビジネスで使うメールの文体もここ20年ほどで大きく変わったという。

「1990年代のメールは手紙の代替品。文体もビジネス文書に近かった。定型の時候のあいさつがあったりするのも普通。個人的感情やフレンドリーな物言いは不要だったんです」

 それが00年代になると、パーソナルな手紙文体へとカジュアルダウンしていく。

「10年代になると、電話で話すような言葉遣いがさらに増え、その傾向はいまも加速している。対面でおしゃべりしているかのような話し言葉が多くなっています。ただ、メールは相手が見えないだけに、リアルのおしゃべりとは違う。肝心な用件があいまいになり、誤解を生むケースが増える傾向にありますね」

 日本ビジネスメール協会が行った「ビジネスメール実態調査2015」によれば、過去1年間でビジネスメールを受け取って「不快」に感じたことがある人は4割。その不快の原因として一番多く挙げられたのは「文章があいまい」だったという。

 あいまいメールを防ぐために平野さんが勧めているのが、メールに不可欠な「パーツ」の確認だ。具体的には、件名、あて名、あいさつ、署名などだ。余裕があれば本文のあとに「追伸」として個人的な近況などを書く。これで相手との距離が縮まるという。

「社内に送る場合などは、すべてを省略して用件のみの短いメールにしてもいい。でも、ビジネスの相手にはメールの様式を徹底し、パーツを点検する。これだけでも思考が整理され、あいまいな表現が減るはずです」

●抜け感を大事にする

 ちなみに自分のメールボックスをチェックしてみると……。会ったことのない仕事の相手に、「かしこまりました+署名」のみのメールなんかもあった。だめでしょ。

 もっと短い文章の達人も訪ねた。書店「リブロ横浜ジョイナス店」の河又美予さん(42)だ。

 小さな子どもがどうやっても脱げない服に悶絶(もんぜつ)する様を描いて話題の、ヨシタケシンスケ氏の絵本『もう ぬげない』。この本のPOP(ポップ)に彼女が書いたのは、「ぬげないよ~」

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