安倍首相のようなセレブな家系の出身者しか、大学には行けなくなるかもしれない。教育に公的な支出をしてこなかったツケだ(立体イラスト/kucci、撮影/写真部・大嶋千尋)
安倍首相のようなセレブな家系の出身者しか、大学には行けなくなるかもしれない。教育に公的な支出をしてこなかったツケだ(立体イラスト/kucci、撮影/写真部・大嶋千尋)
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奨学金なしには大学に行けない世帯は半数を超えた。15年後には、国立大学の授業料が年100万円近くになるとの試算も。誰が払えるのか。(編集部・小林明子)

 夕食は5分で終わる。おにぎりを頬張るだけだ。午後5時15分に金融機関の事務を定時で終えた女性(48)は電車に飛び乗り、午後6時にコールセンターに着席する。金融機関派遣社員の年収270万円に、週3日は午後10時まで働くことで50万円を生活費の足しにし、大学2年の長男(19)を一人で育てている。

 ダブルワークを始めたのは、息子が高校3年の1月だった。ひとり親家庭の児童扶養手当は18歳の年度末で打ち切られる。

「ひとり親家庭の子どもは大学に行かず、働くのが当然だ」

 と制度に突き放されたように感じた。元夫からの養育費はなく、かけていた学資保険は勝手に解約された。両親も高齢になり、援助を期待できなくなった。

 高校で学年トップの成績を修めていた息子が将来、この貧困状態から抜け出すためにも、何としても大学には行かせてやりたかった。

●国立大は40年で15倍

 私立の理系で、授業料は年間136万円。うち126万円を日本学生支援機構の奨学金でまかなう。貸与型で、一部は有利子のため、卒業時に息子本人が約500万円のローンを背負う。

 半期分の授業料の一括納入を前に、住民税の支払いについて区役所に相談しようとしたら、担当者にこう言われた。

「大学に通っている息子さんがいるなら、贅沢ですよね」

 ならば国立大に行かせればいいのに──そう感じた人は、上のチャートを見てほしい。40年前に年間3万6千円だった国立大学の授業料は、15倍の約54万円。私立との差が縮まり、国立ももはや「贅沢」な選択なのだ。

 昨年末には文部科学省が、15年後の2031年度には国立大の授業料が年間93万円程度にまで上がるという試算を示した。国立大の収入源である運営費交付金が財務省案どおりに減り、授業料収入でまかなうという前提付きとはいえ、子育て中の親にとって、100万円近い授業料は衝撃的な数字だった。

 東京都内で3歳と1歳の姉妹を育てているITエンジニアの女性(36)も、20年後の家計を想像して頭を抱えた。

「年50万円なら何とか払えても、100万円となると相当キツそう。自宅外通学なんて絶対にさせられません」

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