ぼくは6月が嫌いだった。
理由その1:祭日がない
理由その2:梅雨がうっとうしい
「その1」については、会社をやめてからどうでもよくなった。でも「その2」は、いまだにきつい。18歳まで過ごした北海道には梅雨がないからだ。そのせいか、体が慣れない。
だが、最近になって「6月、いいじゃないか」と思い始めた。それはアップアップガールズ(仮)の7人中3人が6月生まれだから、ということに尽きる。とくに今年の6月は楽しかった。
9日にTFMホールで行なわれた定期公演は1時の部が古川小夏、4時の部が佐保明梨、7時の部が関根梓の生誕スペシャルに当てられた。古川プロデュースの1時の部ではキレキレのダンスが連続し、佐保プロデュースの4時の部では“破壊”をテーマに板割り18枚が炸裂、関根プロデュースの7時の部では“かわいい”をテーマに「チェリーとミルク」や「CAKE HOUSE」など、“そういやアプガって女性アイドルだったんだな”と改めて思い起こさせてくれるスウィートなナンバーが並んだ。ぼくはアプガのことをアスリートだと思っているし闘士だとも思っている。「空手バカ一代」や「アストロ球団」等のマンガを読んでいるときと同質の熱い興奮を与えてくれる。でも世間的にはアイドルというくくりなのだろうし、こういうアイドル系の楽曲がサマになるのもまた、アプガの限りない魅力のひとつだ。
定期公演の前日まで、アプガは5夜にわたってニュー・シングル「銀河上々物語 / Burn the fire!! / ナチュラルボーン・アイドル」のリリース・イベントを続けていた。トリプルA面シングルだそうだ。片方しか音の入らないCDで「トリプルA面」とは実に不思議な形容だが、これでいいのだ。アプガだから。最近のアプガは機銃掃射のようにシングル盤を出しているが、今の勢いなら1日1アイテム新譜をリリースしてもいいぐらいだ。
リリース・イベント初日である4日、通称ガンダム広場での様子は、ぼくも手続きをとって写真を撮り、文章を書いた(p.tl/ZcpT )。なのでそちらもごらんいただきたいが、夕方から夜になっていく時の流れをアプガと共に過ごすという経験は考えれば考えるほど得がたいものであった。思えばぼくはこの広場からさほど遠くないフジテレビ湾岸スタジオでアプガに初めて出会っている。昨年夏、東京アイドルフェスティバルのたしか初日、ロビーで取材要綱の確認をしていたらメンバーが勢ぞろいして立ち止まって挨拶してくれたのである。なんて礼儀正しく、よく通る声を持ち、ハキハキとしゃべるひとたちなんだろうと思った。とてもスカッとした気分になった。そのときぼくはすでに渋谷や六本木でアプガのライヴを見ていたが、「今の私たちは足軽だけど」と謙遜して歌う超一級のエンターテイナー・グループが、幕内入りしているかどうかもあやしい物書きに目を留めてくれたことは本当に励みになった。あれからもう1年が経ち、いまやアプガのスケールは特設ステージ後方にそびえたつガンダム像を凌駕するほどの大きさだ。
5日は錦糸町のショッピング・モール「オリナスモール」でイベントが行なわれた。左側にはロッテ会館、右側にはスカイツリーが見える。簡単なPA装置を持ち込んだだけだったので、音響は決していいとはいえないし、音量も大きいわけではない。が、一度エンジンがかかると徹底的に燃え上がるのがアプガだ。この日は古川小夏の21回目の誕生日ということもあり、彼女が大々的にフィーチャーされた。とくに「21種類の海洋生物のモノマネ」は、古川の身体が持つとてつもない柔軟性、そして卓越した表現力を遺憾なく示していた。
6日はタワーレコード渋谷店B1F「CUTUP STUDIO」に舞台が移された。これはもう、イベントというよりライヴハウスでのギグそのものだ。「銀河上々物語」を聴いていると、地下だというのに天上に惑星群が見えてくる。エンディングで(仮)と書かれた旗を地面に突き刺すのだが、その突き刺し方が日を追うごとに美しくなっている。流線型のフォルム、といえばいいのか。公演のラストにはバースデーケーキが用意され、古川、佐保、関根がローソクを吹き消した。
7日はタワーレコード新宿店の7Fに登場した。このフロアには日本最大といわれるアイドルCDコーナーがある。新井愛瞳は「ももいろクローバーZのパネルを倒す意気込みで熱演する」というようなことを宣言し、リーダー(仮)の仙石みなみは「サムライ魂で、ここで売られている全アイドルを斬り倒す」的な発言で観客をあおった。「マーブルヒーロー」、「チョッパー☆チョッパー」等の大定番からニュー・シングルまで、アプガの“武器”が惜しげもなくぶちまかれた一夜だった。
8日は台場のMEGA WEBで2回にわけてステージを開催。佐保の誕生日ということもあり、2時の部ではファン有志が彼女のイメージカラーである黄色の風船を配った(ぼくももらった)。この日、日産スタジアムではAKBの総選挙が行なわれていたが、アプガはトヨタの近未来カーに囲まれてのライヴだ。とにかく「行動」、「実践」がアプガの醍醐味。汗水流してナマ声でシャウトし、全身がけいれんするほど激しく踊りまくり、燃え上がるようなソウルフルなメッセージを届ける存在がアプガなのだ。その熱気にあおられたのか、おそらくはアプガのアの字も知らないであろう親子連れなどもステージが進むにつれてぞろぞろ集まってきた。
リリース・イベント5デイズとTFMホール公演を見終えた後、ぼくは得体の知れない感動におそわれ、ついツイッターに書いてしまった。
「魔法にかけられた気分とは、こんな感じなのだろうか。俺の心の中には大きく深い入れ墨が刻まれている。そう、アプガという名の入れ墨だ!!!」[次回7/29(月)更新予定]
・ステレオサウンドオンライン
http://www.stereosound.co.jp/column/idollove/article/2013/06/05/21788.html