アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は三菱電機の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■三菱電機 鎌倉製作所宇宙システム第二部 システム技術第二課長 田中 敦(46)
針の空間とでも言うべきか。壁面にも床にも無数のとんがった凸凹。クッション素材なので触っても痛くはない。
三菱電機鎌倉製作所の宇宙システム技術第二課長、田中敦は言う。
「これは人工衛星が電波をきちんと送受信できるか検証する『コンパクトレンジ』という設備です。凸凹は、電波が乱反射しないための形状なんです」
70人の部下を率いる。人工衛星の用途は、気象観測から軍事までさまざまだが、中心は商用。昨年度は2機を宇宙へ送った。現在は8機の製作を同時に手がけている。試験に次ぐ試験の連続だが、何より大事なのは壊れないようにすることだ。
「いったん打ち上げると、壊れてもカンタンには直せませんからね」
多くの人工衛星をつくってきたが、なかでも感慨深かったのは、昨年10月に打ち上げられた静止気象衛星「ひまわり8号」。プロジェクトの立ち上げから5年を費やした。世界に先駆けて次世代気象観測センサーを備え、初めてカラー画像を取得できるようになった。そんな前例のない技術を盛りこんだ開発ゆえに、徹夜仕事も続いた。だから、種子島から宇宙に旅立った瞬間は「これまでのことが走馬灯のようによみがえった」。
東京工業大学の大学院理工学研究科で学んだ。その頃の国産人工衛星は技術試験のレベル。まだ実用化の段階ではなかったが、「未踏の領域が広がっている」と感じ、この道に入った。競合他社に勤めた後、三菱電機には2001年に入社した。
人工衛星の開発には、さまざまな専門分野の技術者が集う。いくつものチームがうまく連動して初めて、事をなすことができる。異なるバックボーンを持つ人間のエネルギーが、ひとつになって宇宙に向かう。その醍醐味たるや、「すごいんだぜ」という自負がある。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・岡本俊浩)
※AERA 2015年4月27日号