課長の橋本敏さん(58)はこの日、入り口から最も近い「下手席」に座っていた。隣には1年目の職員。入り口に近いため、職員の出入りも多い。でも、このフラットな空気に手応えを感じていると言う。

「自分の周囲で、職員が仕事をし、会話をする。近くで職員の声が聞こえていることが重要なんです」

 平職員から係長、そして課長補佐を経由して課長に。課内では、業務報告もお伺いも、下から上に順繰りに行われる。課長に情報が上がってくるときは、いわゆる「A4一枚モノ」と呼ばれる資料にまとまっている。今回の改革を推進した課長補佐の加藤彰浩さん(30)も、「結構な用件がないと、課長に話しかけることはなかった」と言う。でも橋本課長は、それが問題だと感じていた。

「わざわざ報告するほどでもない、と遠慮した結果、問題が大きくなるリスクもある。でも会話が聞こえる距離にいたら、すぐに軌道修正できる」

 袖机に入っていた多くの書類は廃棄した。オフィス改革前、フロアにはコピー用紙の箱600個分の書類があったが、うち8割にあたる480個分がシュレッダーに吸い込まれた。

 たかが書類と侮ってはいけない。紙一枚でも霞が関に変化は起こせるのだ。パソコンで仕事をするようになり、紙書類を出力する習慣がなくなった。資料を課内で確認するときも、「ちょっといいですか?」と、ノートパソコンを持ち、画面上で確認してもらう。必要に応じてその場で修正し、パソコン上で資料を完成させることも。以前は確認のためにプリントし、修正の指示をもらったら、再度確認のためにプリントしていた。先日は、午後3時まで、プリンターがオフのままだった。

AERA 2015年7月13日号より抜粋