『ぐりとぐら』など、これまで多くの人々に愛される絵本を生み出してきた、作家の中川李枝子さん。中川さんは自身の保育士の経験などを踏まえ、子育て世代にこんなメッセージを送る。
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今のお母さんたちは、いろいろ大変なのよね。私が子育てしていた頃や、ご近所のにぎやかな子どもの声を夫と話題にしていた頃と違い、わが子を思い切り走らせたりできる場所もないし、危険も多い。
私は保育士を17年間していました。楽しかったですね。いろんな子どもがいましたよ。新米の私がピアノでマーチを間違えると、心配そうに楽譜をのぞき込みにくる子、折り紙の折り方を忘れた私に代わって、お友だちにしっかり教えちゃったり…。
そんなとき私はうまくごまかすんですが、内心は子どもにお手当をあげたいくらいでした。手ごわくて、毎日気が抜けなくて、おかげで鍛えられました。
「この保育園は、先生がいなかったらもっといいのに」って言った子がいたの。それで「はい、そうですか」って、園長先生と私、子どもたちを放っておいたんです。ホールの端のほうで、危なくないかだけ見てました。すると子どもは、自由なはずなのに手も足も出せないのね。お弁当の時間が近づくと、そわそわするんだけど、私たちは知らんぷり。ついに一人が静かに食べだして、みんなもまねして食べた。誰もこぼさないし、騒がない。
お昼が終わると「やっぱり先生はいたほうがいい」ですって。おかしいでしょう。こっちは先に生まれた大人ですから、負けてはいられません。
幼年童話『いやいやえん』の世界は、こうした私が体験した園での日々から生まれた物語。『ぐりとぐら』だってそう。『ももいろのきりん』も私の反省がきっかけです。一人の女の子がピンクの包装紙で作った良いキリンを、ちゃんと褒められなかったの。
「私のキリン、見て見て」と言われたときに心を込めて返事しなかった。でも毎日、その子がキリンをお道具箱にしまって大切にしていることに気がついて、もっと褒めれば良かったって。その罪滅ぼしでできた作品なの。
子どもはみんな物語が大好きです。本をいっぱい読ませてあげてくださいね。本を読まない子は、まずお母さんが本に夢中になればいいんです。子どもも一緒に読みたくなるはずだもの。
子育ては完璧になんてできないものでしょ。普通に育てるのだって夫と2人がかりでやっとよ。大変だもの。シングルの人は、周囲に甘えていいんですから。
※AERA 2015年6月8日号より抜粋