アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回は花王の「ニッポンの課長」を紹介する。
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■花王 ハウスホールド研究所 室長 岡野哲也(46)
食器用洗剤は一般的に、植物由来のヤシの実の油脂を原料につくられる。熱帯雨林のような温室のある和歌山研究所が、岡野哲也の仕事場だ。
花王の食器用洗剤の看板ブランドといえば、10年前に発売された「キュキュット」シリーズ。それを8月、全面改良して新発売した。これには5年以上の歳月を要した。
2009年春、ハウスホールド研究所に着任すると、キュキュットの革新的改良を命じられた。大学院では、高分子工学を研究。花王に入社後は、長く化学品の開発研究に携わってきたが、商品開発となると経験がない。
「開発チームの若い部下たちのほうが知識も経験も豊富で、眠れない日々でした。でも、わからないことは『教えて』とどんどん聞いて、身につけていきました」
洗うときには豊かに泡立ち、すすぐとスッキリ泡切れさせるにはどうすればいいか。凝りだすと突き詰めるタイプ。流し台に立ち、食器を洗うプロセスをこと細かく観察し、どこでどんなストレスを感じるかを徹底的に探った。これまでの処方を思い切って全部捨て、ヤシの原料以外の洗浄成分も一新。チームで一から再検討した。
「これでもか、これならどうだ、今度こそは……。本社事業部に提出するたびにダメ出しされながら、格闘してきました」
ヒントは、化粧落とし(クレンジング剤)など、洗浄剤を広く研究している社内に転がっていた。結果的に2千通り近い処方を試した。
濃密な泡で手ごわい油汚れも落とし、水を注ぐと汚れを包み込んだ泡がさっと消える。だから、節水にもなる。ようやくできた食器用洗剤を妻に試してもらった。いつもは厳しい評価の妻が、「これはすごい」と驚いてくれた。その言葉が、何よりうれしかった。
「どんなに小さい製品にも、キラリと光る科学(サイエンス)を入れたい」
めんどうな食器洗いが、科学の力で少しでも気持ちよくなれば、と思うのだ。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・西元まり)
※AERA 2014年12月22日号