今回はまず、前回取り上げたローザ・ルクセンブルグの紙ジャケ・リマスター・ボックス情報のつづきから。当初は6月リリース予定と告知されていたのだが、おそらく諸々の編纂作業に手こずっているのだろうか? 発売日がひとまず7月3日に延期となった模様。ファンとしては、「キラーコンテンツのさらなる追加」を期待しつつ、グッと我慢の子。まぁ夏の愉しみがひとつ増えたということで。
さて、つい先週のこと。ぼくは、ローザ・ルクセンブルグの超名作1stアルバム『ぷりぷり』を引っ張り出すため、何年も手付かずにしていた押入れ奥のダンボールの山をゴソゴソと漁ってみた。すると、出るわ出るわ、自らの音楽遍歴や青春の日々を振り返るかのごとき、お宝品の数々が。しかも几帳面な性格が功を奏してか、しっかりと時系列に沿っているではないか。転勤や引越しを何度も繰り返している人にとっては、もはやおなじみの光景なのかもしれないが、こういうのたまにはいいもんだなぁと、ほこりアタマに黄昏ビール、ひとしきり。
さすがにローザやボ・ガンボスは(CDのみではあるが)コンプリートで残存。一時代を築いた“短冊”型の8cmCDシングルも、「時代を変える旅に出よう」から「恋をするなら」まで、ミント・コンディションにて無事是再会を果たすことができた。この短冊シングル、今見ると実に愛らしい。愛らしい上に妙な風格さえ感じさせる。当時はだいぶ賛否両論あったと記憶しているが、今となっては何と言うか、失われたメディアとしての“箔”が嫌味なくまとわり付いてきたようにも思える。コレクションしている人もきっと多いんだろうな。
ボ・ガンボス、ニューエスト・モデル、メスカリン・ドライヴ、グルーヴァーズ…中学生の頃から大好きだった私的“四天王バンド”の短冊シングルが芋づる式に掘り出される。さらに奥には、RCサクセション「I Like You」、麗蘭「マンボのボーイフレンド」なんかが。おっと、エンケンの「ミッチー音頭」に、アンジー「天井裏から愛を込めて」、ニューロティカ「チョイスで会おうぜ」もあるぞ! 手持ち在庫の短冊シングルで分かる自らのルーツとはこれいかに。ニキビ面のバンド小僧だったあの日のぼくに逢えたかのような、そんな喜ばしくも照れくさいひとときに舌鼓を打つ。
と、前回から取り憑かれたかのようにバンド・ブーム四方山をゴリ押ししているわけだが、人の嗜好遍路というものはこれまた不思議なもので、その後英米のロック、ブルース、ソウル、ファンクを通過しながら、5年もしないうちに、ヒップホップやR&Bにどっぷりと浸かる時代がやって来たのだ。その足跡は、引っ張り出したダンボールの中身を見ても笑えるぐらいに明らかで、蒐集の毛色激変ぶりが如実に伝わってくる。どこからかを境に、ランDMC、パブリック・エネミー、サイプレス・ヒル、デ・ラ・ソウルといったヒップホップ・グループのCD、LPが顔を出し、そこをさらに掘り進めると、鮮やかなグラデーションを織り成しながら日本語ラップ大教典盤の群生にたどり着く。こういう流れ、我ながらマジメな勉強態度だったのねと感心しつつ、ブッダブランド、シャカゾンビ、ライムスター、スチャダラパー、ECD、四街道ネイチャー、ランプアイ、キングギドラ、ユウ・ザ・ロック☆、マイクロフォン・ペイジャー、ソウル・スクリーム、ラッパ我リヤ…ダンボール、いや聖なるレコ箱にびっしりと詰められたジャパニーズ・ヒップホップの12インチ・レコードを手に取りしばし回想タイム。
若い時分というのはホントに多感。多感ゆえに熱しやすく冷めやすい一面もありつつ、されど勢いまかせに何でも聴いてみないと気が済まない。好き嫌いはあるにせよ、とにかくその文化に深くコミットしていかねば道は開かれないぞと、まさしくイケイケどんどん、レコ屋にクラブに東西奔走していた日々がよみがえる。
「ジャンル横断」というリスニング概念は今でこそ常態化したものとなっているが、90年代半ばぐらいにおいては、演者同士は別として、ロック・リスナーにせよヒップホップ・リスナーにせよ、お互いまだまだ縄張り意識が強かったというか、双方の風通しはなかなか悪かったと記憶している。エアロスミスとランDMCが共演し、近田春夫や藤原ヒロシがラップに興じていた歴史があったにも関わらず、長髪ベルボトムの兄ちゃんと坊主アタマに上下アディダスのBボーイとの間には100万光年以上の心の隔たりがあったのはたしか。レコ屋で両者の睨み合いを何度も目撃したのはぼくだけじゃないはず。だからして、ロックあがりのぼくのようなリスナーが当時ヒップホップ村に潜り込むということは、ホントに命がけの冒険でもあったのだ。当初は、「ロック好きと悟られぬように…」という、いわばストレスフルな心持ちでヒップホップ・カルチャー、その現場に足を踏み込んでいた。そう言えば、レゲエやソウルを共通言語にするとだいぶ周囲との会話もスムーズだったかなぁ。
話がかなりとっ散らかってきたので、そろそろ今回のメインディッシュを。ダンボールに詰められていたジャパニーズ・ヒップホップのCDをアレコレ掘り出した中で特にテンションが上がった一枚。MP3プレイヤーに突っ込んでまた聴き返したい。それが、フロム火の国・熊本の2MC+1DJ+1トラックメイカー(2013年現在2MC+1DJ)、餓鬼レンジャーの1stミニ・アルバム『リップ・サービス』だ。
ぼくがここで改めてオススメしなくとも、とっくのとうにジャパニーズ・ヒップホップ・クラシックとして(局地的ながら)認知されている一枚であるわけだが、何とこのたび、この餓鬼レンジャーが“復活”を果たすのだというのだから、再レコメンドにはこれ以上ない絶好のタイミング。しかも7年半ぶりのフル・アルバム『Weapon G』もリリースされて…いや待てよ、“復活”ということは、彼ら解散していたのか? たしかにグループとしては『GO 4 BROKE』というアルバムを最後にリリースは途絶えていたけど、ぼくもそこまでハードな餓鬼ウォッチャーではないので、事の真相を確かめるために彼らのオフィシャルHPや特集/インタビュー・サイトを早速チェック。
某サイトのインタビュー記事を読むかぎりでは、解散こそしていないものの、当たり前の話だがこの7年間色々とあったようだ。ただしその当時を振り返る彼らの言葉にお涙頂戴系の辛気臭さはまったくと言っていいほど感じられなかった。それは、「まずは空手チョップ」、「SHORT PANTS」という2曲の新曲が搭載されたベスト・アルバム『Weapon G』を聴いていても同じ感想。むしろ一時期より、餓鬼らしい「ユーモア」や「エロ」のセンス、つまりナンセンスに磨きがかかっているような気にもさせられた。バラエティに富んだバウンス・トラックもさることながら、腰が砕けるほどしょーもない、でも元気をもらえる、ギンギンになれるこのユーモアとエロの交配激情リリックこそが、餓鬼レンジャーの真骨頂なのだ。全ヴァースがまさしくパンチライン。
感覚的且つ強引かもしれないが、このナンセンスな風合いはローザ・ルクセンブルグやボ・ガンボスのそれに非常に近しい気がするのだが、どうだろう? ぼくにとっては、例えば餓鬼の「LOVE LOVE LOVE」とボ・ガンボスの「どたあけ」は、さしずめ一卵性双生児のような関係にあたる。ちなみに新曲「SHORT PANTS」は、プリプリ奥居香オマージュからのRIP SLYMEスタイル模倣という極めてマス向け(?)の大技。デビュー15周年、「思春期真っ盛り」という餓鬼のエンタメ新境地が今ここに。
彼らの曲には、高圧的な御宣託もなければ小賢しいドグマもない。「基本的にくだらなくてイケイケ」(MCポチョムキン)。この「くだらなさ」というのが当然ミソであり核であり、度が過ぎればお茶の間のみならず全ての場をドン引きさせる巨大な破壊力をも併せ持つ。今後はニューアルバムのリリースも予定されているそうで、いよいよ餓鬼の季節がやって来るのかァと、目の前に過去と未来をつなぐ橋が架かった喜びにニヤけ独りごつ。餓鬼レンジャー、15年目にして大化けするぞ![次回6/19(水)更新予定]