2月4日、日本でヨルダン人パイロット、カサースベ中尉が殺害されるビデオが公表された。その残虐な映像から見えてくるものとは。
「目には目を、歯には歯を」
世界に衝撃を与えたヨルダン人パイロット、カサースベ中尉を焼き殺すビデオを見ながら思い浮かんだのは、子どもの頃から慣れ親しんだことわざだ。
ビデオは全編で22分間ある。日本や欧米のサイトではあらかた削除されているが、ビデオが公表された日本時間の2月4日未明、中東のサイトからフルバージョンをなんとか落とし、嫌な気分をこらえながら3回、最後まで通しで見た。
残酷なビデオ。それは間違いない。だがそのシーンは最後の数分間に過ぎない。全編を見て初めて分かるのは、過激派組織「イスラム国」がアピールしたいことは「残虐な殺戮(さつりく)」ではなく、空爆に対する「正当な報復」であると確信した。
中尉は、イスラム国壊滅を目指した昨年8月以来の米主導の空爆に参加したパイロットで、12月に撃ち落とされて捕虜となった。CGを駆使したビデオで空爆の様子と焼け焦げた子どもらをフラッシュバックで繰り返し映し出す。中尉は空爆が過ちだったと「告白」。ほかのヨルダン人パイロットたちの名前と住所を明かし、地図つきでテロが予言される。空爆で破壊された廃虚に立つ中尉は覆面兵士たちに取り囲まれ、鉄のオリの中でガソリンに火がつけられる。
考えてみると、イスラム国自体がイラク戦争を起こした米国への「報復」から生まれた「イラクのアルカイダ」を原点とする。十数年の時を経て、イラク・シリア国境の広大な地域を支配する「怪物」に育った。どれほど身勝手で独りよがりな理屈であっても、「報復」という行動原理はその存在の深いところに、しっかりと埋め込まれているのだろう。
中尉の様子について、都内の整形外科医は話す。
「拷問、暴行の痕は明確です。左目の下が深く切れ、口の中の傷のせいか話しにくそうで、手ひどく殴られた可能性が高い」
映画の宣伝やCMなどを作る映像クリエーターにも見てもらうと、CGなど映像技術もさることながら、「シナリオをつくり、素材をはめこみ、物語に仕立てている。立派な“ドキュメンタリー作品”です」という。
「CGなどの画像処理自体はアドビのソフトなどを使えば数日でできるが、ほかの映像素材を集め、処刑のロケを決め、コンテを作る作業はチームで行うもので、日本なら最低1カ月はかかるプロジェクトです」
人質解放交渉の決裂から数日で完成させたとは到底考えられず、ヨルダン政府の明かした「1月3日殺害説」には一定の合理性がある。そうなると、結局、日本はヨルダンとイスラム国の駆け引きに巻き込まれただけで、「FREE KENJI」の叫びなど到底届きようがない魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界に後藤さんらは落ち込んでいたことになる。
※AERA 2015年2月16日号より抜粋