世界でも評価されつつある日本の「カワイイ」。それを歴史的側面から読み解く人がいる。東京大学特任研究員を務める久保友香さん(36)だ。
高校時代から、文系の授業中はこっそり数学を解いていたという生粋のリケジョ。大学でも工学を学んだ。転機は、大学院に進んだとき。浮世絵や美人画の構造に興味を持った。
浮世絵は1739年に伝来した西洋の透視図法を一度は取り入れながら、1800年以降、独自の構図で描かれるようになっていた。獲得した技術を、捨てたのはなぜか。高松塚古墳の壁画に始まる美人画の描線は、「美人」のどんな基準を映し出すのか。その数値化に挑み、写真を浮世絵風の構図に変換するソフトや、人の顔を年代別の美人画風に変換するソフトを開発した。
「数学も好きだけど、演歌や任侠映画、日本の大衆文化も好き。それを数学的に表現できないかと考えるようになりました」
設定した課題は「カワイイとは何か」。曖昧で形のないものを形にする試みにハマッた。実際に着替えることなく洋服の試着を可能にする「スガタミラー」を作り、プリクラメーカーと共同研究し、パリで開かれた「JAPAN EXPO」にも出向く。世界に広まりゆく「カワイイ」には、違和感も覚えたという。
「子どもっぽいロリータが『カワイイ』というか…。日本とは違う形で受け止められていると思ったんです」
「カワイイ」の背景には歴史がある。平安時代、不特定多数の目にさらされる巫女(みこ)たちは、プライバシーを守るために顔を白塗りにした。現代の女子高生たちの過剰メークはどうか。プロフィル写真を盛る。それがオンラインでのアイデンティティーになる。現実の世界でも、つけまつげや二重まぶた糊(のり)が彼女たちを「理想の顔の再現」に駆り立てる。久保さんは、女子高生たちが表現する「カワイイ」を女性の誰もが持っている変身願望に例え、「シンデレラ・テクノロジー」と名付けた。
「カワイイはコミュニケーション技術。グーグルのエリック・シュミット会長も指摘している通り、今後、オンラインアイデンティティーはますます重要になります。ネットの中で個人がさらされるという問題に立ち向かうとき、遊び心のある彼女たちのスタイルに、学ぶところは大きいと思います」(久保さん)
※AERA 2014年12月29日―2015年1月5日合併号より抜粋