アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はヤフーの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■ヤフー 復興支援室 復興デパートメント担当マネージャー 長谷川琢也(37)
石巻湾に面するリアス式海岸。漁船に乗り込んだヤフーの長谷川琢也は、波に揺られ、宮城県石巻市牧浜沖のカキの養殖棚へ向かう。この地域の養殖棚も「3・11」の大津波で大きな被害を受けたが、漁師たちは再起していた。そんな人々と消費者をインターネットでつなぐのが、長谷川の仕事。ヤフーのサイト上で「復興デパートメント」を運営。東北の海産物や農産品、工芸品のネット通販を、土地の担い手とともに手がけている。
横浜育ちで千葉大学卒。ITベンチャーを経て、2003年にヤフーに転職した。話し好きで、高いコミュニケーション能力が評価され、新事業を立ち上げる時にはよく声をかけられる。eコマースの宣伝部門で部長を任された時も、職場を明るく盛り上げたが、一方で、
「M&Aもできないし、プログラムを書けるわけでもない。中途半端」
と劣等感も感じていた。迷いを吹き飛ばしたのは、東日本大震災。社業を離れて単身、津波被害が甚大な石巻に入り、がれきの撤去を手伝った。その後も休日や有給休暇を利用し、自腹で石巻へ。地元の人から「お帰り」と迎えられ、ホヤの味の奥深さも知った。
震災から1年後、「会社辞めて、移住か」とも考えた。社長の宮坂学に相談すると、「復興支援の新事業を立ち上げろ」と命じられた。12年7月、石巻市内に「ヤフー石巻復興ベース」を開設。住まいも現地に移した。
被災地支援として次々とインターネットを使ったサービスが立ち上がった。しかし、漁師や農家と関係を築くとき、相手のふところに飛び込み、信頼を勝ち得るのは、生身の力だ。長谷川はそのことを、よくわかっている。
「指先の仕事だけじゃわからないことがある。被災地と外側、ITとリアルの間に立って、両者をつないでいきたい」
今月14日には、自転車イベント「ツール・ド・東北」も控える。復興支援室と河北新報社が共同で主催し、3千人が参加するイベントだ。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・岡本俊浩)
※AERA 2014年9月15日号