アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はニッカウヰスキーの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■ニッカウヰスキー ブレンダー室 主席ブレンダー 森弥(38)
友だちの半分は製薬会社に就職した。それはそうだ。東京理科大学の大学院で、生物工学を学んだのだから。でも、森弥が就職先として選んだのは、ニッカウヰスキー。「日本のウイスキーの父」と称される創業者・竹鶴政孝に「挑戦者の精神を感じたから」だ。
2000年に入社した。最初に配属された宮城峡蒸溜所(仙台市)は、余市蒸溜所(北海道余市町)と並ぶ、原酒(モルトウイスキー)づくりの要だ。森は、そこでウイスキーの品質管理や原酒開発に携わった。
10年すると柏工場(千葉県柏市)の「ブレンダー室」に配属され、今は主席ブレンダーを務める。部下は2人。ニッカの新商品開発や発売中の商品の品質管理は、森たちの鍛えぬかれた"嗅覚"にかかっている。森はグラスにウイスキーを注ぎ、鼻孔に近づける。
「酵母が発酵することによって生じる化合物は、多様。原料によっても異なる。香りもその分、複雑なんです」
どこで蒸留されたのか、寝かせていた樽の材質は何か、貯蔵した場所はどこなのか。5年ものか、10年ものか、あるいはそれ以上か……原酒は条件によって表情を変える。そんな原酒を混ぜ合わせてつくるブレンドウイスキーの味わい、品質を維持するのは、至難の業だ。
いま使っている原酒の量には限りがあるから、在庫が底をつくと、別の原酒をあてる。それでも変わらぬ風味と品質を保つのが、ブレンダーの“腕”。むろん、重要なのは原酒の良しあしだ。将来、いい“表情”になっているかどうか、鼻を利かす。評価結果を記したファイルには、細かな字で評価コメントがつづられている。
「この瞬間に嗅いだ香りが、10年、20年先のブレンダーに引きつがれる」
ブレンダー室に流れるのは、大いなる"時"の流れだ。(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(編集部・岡本俊浩)
※AERA 2014年8月25日号