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学生売り手市場の就活で懐かしいシーンが登場している。食事にテーマパーク、親の意思確認まで内定辞退防止策が熱を帯びている。(ライター・寺山さくら)

 巨大なシャンデリアに銀の食器。広々とした会場には、イタリアン、フレンチ、中華などの料理がビュッフェ形式で並んでいる。

 都内有名私立大学4年のA美さん(22)はその豪華さに目を見張った。内定が決まっていた東証1部上場のサービス大手企業が内定式前に行った内定者懇親会でのことだ。

「今まで行ったことのないような高級レストランで、驚きました」

●内定者全員にiPad

 リクルートワークス研究所の調査によると、2015年3月卒業予定の大学生・大学院生対象の求人倍率は1.61倍で、前年の1.28倍より0.33ポイント増と大幅に上昇した「売り手市場」。多くの学生が複数の内定先を抱える中、獲得した学生が内定を辞退しないよう、企業側はあの手この手で「営業活動」を繰り広げている。

「レストランでの接待に加え、有名テーマパークで内定者懇親会を行う企業もある」

 と明かすのは、オールアバウト「大学生の就職活動」ガイドの小寺良二氏。

「いかに他社を蹴って自社の集まりに来てもらえるか、企業は知恵を絞っている。テーマパーク懇親会も学生の参加率を上げるため。他企業と差をつけるのに必死なんです」

「プレゼント作戦」を展開する企業もある。首都圏の中小包装資材会社は今年初めて、内定式前の懇親会で内定者約10人全員にiPadを配布した。採用担当者は、「顧客に対する説明やスケジュール管理などに使用するため、社員全員に配布済み。内定者にも入社前に扱い慣れてもらうことが目的」と説明するが、「自己負担であれば有料アプリなどの使用は自由」。同社に内定が決まったB男さん(22)は「欲しかったのでとてもうれしい」と、内定先からの「プレゼント」に満足そうだ。

●入社意思を「オヤカク」

 小寺氏によると、内定を出した企業が学生の親に入社の意思確認をする「オヤカク」もみられるという。A美さんも、内定先から親に対して直接連絡こそなかったものの、それに類した体験をした。

「全員参加必須の研修で家族からの『応援メッセージ』の提出を求められました。入社の意思を外堀から埋められているような気がしました」

 過剰ともいえる採用活動がある一方、都内の中小サービス企業採用担当者は「小さな会社はお金をかける余裕がない」と打ち明ける。

「内定者とこまめに連絡を取り、入社前のグループ課題で内定者同士のつながりを強めるなど、地道な努力を重ねています」

 都内の中小インフラ会社人事担当者もこうこぼす。

「内定者懇親会の回数を増やすなど努力はしているが、大手に決まると逃げられてしまいます」

 東京都が主催した中小企業対象のある合同面接会に参加した就活生数は今年、昨年の1千人から340人と大幅に減少。都の担当者は、こう説明する。

「売り手市場は学生にとってはいいことだが、中小企業ではかなり人手が不足している」

 一方で、就活生側でも二極化は進んでいる。売り手市場とはいえ、企業の内定式が終わった10月末でも内定ゼロの就活生もいる。都内の「無名私大」に通うC男さん(23)は、昨年度はついに就職先を見つけられず就職留年、現在2回目の就活中だ。昨年の就活と比べると、周りの友達は絶好調だが、自身の状況は芳しくない。

「留年の負い目もあり、面接で自分をアピールできない。就活に向いていないのだと思います。売り手市場の実感は全くないのに、周りの人は内定をもらう数も多く時期も早まっている。もらえる人ともらえない人との格差が拡大していると感じます」

AERA 2014年11月24日号