9月27日、御嶽山(おんたけさん)は紅葉の季節。朝から登り始めた人たちが、ちょうど山頂付近にかかる頃、噴煙が立ち上った。何が登山者の生死を分けたのか。

 長野県木曽町の青木敬次さん(63)は噴火時、山頂から500メートルほど下った「二ノ池」付近にいた。すぐに近くのマツの木の根元に潜り込んで降灰の“雨”をしのいだ。

 カメラが趣味で、紅葉の色づきを確かめようと御嶽山に登っていた。ただ、この日は山に来ていることを事前に家族に知らせていなかった。うずめた体の周囲に次々に積もる火山灰を、薄目を開けて確認しながら、家族のことが頭をよぎった。

 ズボンの左ポケットにある携帯電話には、3人の娘といつでも連絡がとれるよう、ワンプッシュダイヤルに番号を登録してある。来年、小学生になるただ一人の孫娘に、ランドセルを買う約束のことも考えていた。

 青木さんの周囲は噴火の直後に雷が鳴り、雨が降った。水分を吸った灰は粘つき、下山を始めた青木さんの靴底を滑らせた。

「ここでけがをしたら終わりだって言い聞かせながら、慎重に歩いた。火山灰を吸い込むのも怖かったので、口に当てたタオルだけは手放さなかった。最後は家族の存在が、エネルギーになりました」

 新潟市で旅行会社を経営する鹿島純一さん(54)は、登山ツアーの添乗員として、23人の参加者らとともに頂上を目指していた。噴火に遭ったのは8合目付近。灰とともに、2~3センチ大の噴石が降ってきた。直ちに避難を開始し、全員が無事に下山できたのだが、

「この日、行程は40分ほど遅れていた。順調だったら、噴火時は多くの人が亡くなっている頂上付近にいたはず。ほんのわずかな差が、生死を分けたのだと感じています」(鹿島さん)

AERA 2014年10月13日号より抜粋