安倍政権は「日本再興戦略」に、ITを使った在宅勤務(テレワーク)推進を盛り込んだ。
在宅勤務に詳しい三菱総合研究所の江連(えづれ)三香さんによれば、最大の不安要素とされてきたセキュリティーについては、「技術的にはほとんどクリア」されていて、導入をためらう理由にはならない。もはや、「導入するしないはトップの決断次第」だというが、やはりいくつかの課題があるようだ。
例えば日産自動車の場合、「制度はあっても利用されない」という課題を抱えていた。
2006年に在宅勤務制度を導入。当初、子育てや介護をしている人に限っていた利用対象を10年には全社員に広げたにもかかわらず、利用者は一向に増えなかった。「月1回」という利用制限と、前月までに人事部に申請しなければならないという規則で、「ほとんど『使わないでね』といわんばかりの制度」(同社ダイバーシティディベロップメントオフィスの櫻井香織さん)になってしまっていたからだ。
今年、「月5回まで」「上司と仕事内容の合意さえできれば、前日の申請でもOK」としたところ、利用者は7%から15 %に増加した。自身に通院の必要があり、子どもも病気がちという伊藤重人さんは、フレックスタイムと在宅勤務を組み合わせ、午前中は通院し、帰宅後に午後1時から9時まで仕事、といった使い方をしている。
「『パフォーマンスが出ないならクビでもいい』くらいの覚悟でやってます」
柔軟な働き方を認めてくれた会社に対しては、忠誠心がアップしたという。
制度が整ったとしても、テレビやソファなど「誘惑」が多い自宅で、サボらずにちゃんと働けるのか、という懸念は消えない。前出の日産・櫻井さんが「在宅勤務をすると自分の生産性が明らかになるので、自信がない人はやりたがらない」と言う一方、米ヤフーでマリッサ・メイヤーCEOが昨年、在宅勤務禁止を打ち出し、物議を醸したことは記憶に新しい。表向きの理由は「在宅ではイノベーションが起こりにくいから」だが、実際はサボリが多かったからだとも言われている。
この点について、在宅勤務専門のコンサルティングを行うテレワークマネジメントの田澤由利さんはこう話す。
「在宅勤務だから怠ける、のではなく、在宅勤務者をきちんとマネジメントできていなかったことが問題なのです」
解決策の一つは、在宅勤務中も出社しているときと同じ緊張感とモチベーションを維持できる環境をつくることだ。Sococoというバーチャルオフィスのツールを使うと、PC上に各自のデスクが表示され、在席状況が一目瞭然。メンバーのアイコンをクリックすればいつでも音声会話やチャットが可能だ
※AERA 2014年10月6日号より抜粋