全身脱毛にフェイスケア、まつ毛エクステ…。ハマっているのは女子じゃない。れっきとした中年オジサンたち。彼らが美魔女ならぬ「美魔夫(びまお)」になったきっかけとは。
シンジさん(43)は去年の夏、出張先のインドで、20代の部下とタクシーに乗り込んだ。するとドライバーが声をかけてきた。
「仲のいい親子だね~」
自分では、見かけはまだ30代そこそこのつもり。2年前に大手商社から独立、起業して「これから」と血気盛んなときでもあった。
翌日、スマホで部下と「自撮り」した写真を見て、さらに落ち込んだ。写っていたのは、どう見ても「オッサン」にしか見えない、くたびれた中年男だったから。初めて「このままじゃヤバイ」と痛感したという。
その直後、知人に紹介されたのが、東京・渋谷のまつ毛エクステンションサロン「Crazy Beauty(クレイジービューティー)」。医療用の接着剤で人工まつ毛を付けてくれる。もともと奥二重で地味に見られやすかったから、まつ毛の増量で若々しさと「目ヂカラ」を手に入れたかった、とシンジさん。
「エクステ直後は、ウキウキと気分が高揚する。スーツを新調したときのように、全身に『やれる』と自信がみなぎってくるんです」
クレイジービューティーの顧客の1割は、男性客。経営者や営業職を中心に、毎月100人以上の男性が来店するという。「男のまつエク」は、もはや珍しいことではないのだ。
「お客さまの大半は、社会的にいい印象を与えたい、とやってくる。キチンと月1回、定期的に通ってくださる方がほとんどです」(店長の松坂未沙さん)
車のディーラーの営業マン・トオルさん(46)は、「4月に消費税が上がって以来、なかなかクルマが売れない」と、こぼす。ネイルケアとまつ毛エクステにハマる彼は今年、なんと「鼻毛」の永久脱毛まで始めた。きっかけは営業中、女性客に鼻の辺りをジロジロ見られたこと。
「気が散って成約に至らなかった。あとで見たら、鼻毛が2本出ていたんです。このせいか、と」
翌朝、「鼻毛」「脱毛」「エステ」と検索、ヒットしたサロンにすかさず予約を入れた。以来、数カ月に1度は通い続けている。鼻毛脱毛は痛みも伴うが、やれば着実に結果が出る。ネイルやエクステも、極めるほど奥が深い。
「もう先が見えた仕事や夫婦関係より、極めがいがある」
(文中カタカナ名は仮名)
※AERA 2014年9月22日号より抜粋