家事とは、手や体を使う「作業」のこと。全国で開催される「お手伝い塾」では、子どもの自立のきっかけが作れる(撮影/篠塚ようこ)
家事とは、手や体を使う「作業」のこと。全国で開催される「お手伝い塾」では、子どもの自立のきっかけが作れる(撮影/篠塚ようこ)
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 子どもに家事などをさせる「お手伝い」。実はこれには、しつけ以上の意味があるようだ。

 こんな調査がある。国立青少年教育振興機構がまとめた「子どもの体験活動の実態に関する調査研究」(2010年発表)。自然体験や友だちとの遊びといった子どもの頃の体験の有無、そして、その影響が出ると考えられる最終学歴や年収など、その後の人生との関係を調査している。分析の結果、「家の中の掃除や整頓を手伝ったこと」などのお手伝い経験を含め、子どもの頃の体験活動が豊富だと、最終学歴が高く年収が多いといった傾向が見られた。

 神戸市に住む専業主婦の女性(45)は、息子が手を出す余地がないほどに家事はもちろん、勉強や部活のサポートをこなしてきた。まるで、専属マネジャー。優秀で素直な息子は、この春に大阪大学に進学した。

 大学には自宅からも通えるが、今はあえて一人暮らしを強いている。理由は、浪人時代に息子が叫んだこの一言だ。

「もう放っておいて!」

 以来、自分で家事をさせ、一歩引いて接するようにした。この女性は言う。

「社会人になって手遅れになる前でよかった。有名大学から一流企業に入っても、30歳前後に心が折れてしまった知人は多い。彼らがお手伝いをしていたかどうかは分かりませんが、以前の息子のように圧倒的に受け身で、サバイバル能力が低かった印象がありますね」

 子どもに自主的にお手伝いさせたい親とその子どもを対象にした“お手伝い塾”もある。

「お手伝いなんて面倒くさいし、お母さんの仕事だもん」
「包丁はいつから持たせていいですか?」

 神奈川県茅ケ崎市の一軒家で開かれたある日の塾は、こんなディスカッションから始まった。部屋に輪になって座った数組の親子をまとめるのは、「家事塾」を主宰する辰巳渚さん。「生活哲学家」「消費行動研究家」の肩書を持つ彼女が、母親たちの悩みに笑顔で答えていく。

「頼めば手伝ってくれるなら、それでよしです。言い続けているうちに身に着くんですから」

 なるほど、手伝わないと諦めるより、言い続けるほうがベターなのだ。

AERA 2014年9月8日号より抜粋

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