グローバル化が進む昨今、日本企業で働く外国人は少なくない。なかには、こんな場所で外国人が活躍するケースもある。
その提案は、古株の杜氏の度肝を抜くものだった。
「欧米人も楽しめるように、甘口で炭酸入りにしてはどうでしょう」
高知県安芸市で江戸時代から続く老舗の酒造会社、菊水酒造に、米国人のデーナ・ベルテさん(28)が入社したのは、4年前のことだ。国際交流員として来日した際、青森の食事会で勧められた一杯の冷酒にハマった。銘柄は「漢字で書かれていた」ことしか覚えていない。でも味はしっかりと、記憶に残る。
「なんて、上品な味だろう」
日本酒に魅了され、日本で就職することにした。
総務部の春田和城さんは、デーナさんの才能に驚いた。利き酒で、味や香りの違いを瞬時に見抜く様子を見て、「日本人とは違う角度で、日本酒を捉えている。技術を教えたらいいものが生まれるのでは」と感じた。その予感は、ずばり当たった。
杜氏はデーナさんの常識外れな提案に驚きはしたが、反対はしなかった。日本酒離れが進み、会社は改革を迫られていた。「海外向け」「女性受け」「日本酒らしくないお酒」をテーマに、新商品の開発に取り組むなかで採用したのが、デーナさんだった。
杜氏と二人三脚で試作品をつくり、外国人を集めた試飲会を開いて意見を聞いた。味や口あたりをまとめ、炭酸入り発泡清酒「きららきくすい」が完成した。
「まるでスパークリングワインのよう」
発売すると、女性を中心に人気を集め、全日空の機内酒にも採用された。海外では売上高は年間2千万円に上った。デーナさんには、夢がある。
「老舗は新しいものに興味がないと思っていたが、そうではなかった。ここで技術を身につけ、将来は杜氏になりたい」
※AERA 2014年7月14日号より抜粋