ベネッセコーポレーション五十嵐洋一さん(52)いわゆる「本流」の部署は経験がない。ゼロから価値を生みだすことに喜びを感じる。「自分の仕事に意味があるなと思えることが働きがいだと思います」(撮影/写真部・工藤隆太郎)
ベネッセコーポレーション
五十嵐洋一さん(52)

いわゆる「本流」の部署は経験がない。ゼロから価値を生みだすことに喜びを感じる。「自分の仕事に意味があるなと思えることが働きがいだと思います」(撮影/写真部・工藤隆太郎)
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 会社員の逃れられない宿命、異動。時にはそれによって、仕事のモチベーションが大きく左右されることも。異動と向き合った会社員を取材した。

 希望の部署に行けないどころか、その部署が入社直後になくなってしまうという「絶望」に見舞われた、ベネッセコーポレーションの五十嵐洋一さん(52)の場合はどうか。

 大学時代の大半を、写真部の暗室で過ごした。個展を開くほどのめり込み、写真雑誌「PHOTO JAPON」を作りたくて福武書店(現ベネッセ)に入社。進研ゼミの営業をする主婦を組織する「家販部」に配属された。翌年、あこがれの雑誌が廃刊。「ここにいても意味がない」と、胸ポケットに辞表を忍ばせるようになった。失意から朝方まで飲んで遅刻を繰り返し、勤務態度の悪さで評価も最低。ある日、同期と給与明細を見せ合って基本給の差に驚いた。

 3年目の後半、組織改編で幼児向けの教材を作ることになった。後の「こどもちゃれんじ」だ。幼稚園を回り、クマやヒツジの絵を見せるなどして開発を手伝ったのが、いまも人気のキャラクター「しまじろう」だった。この経験を経て4年目に名古屋で元の業務に戻ったとき、興味が持てなかった仕事への見方が変わったという。

「同じ仕事でも、思い入れ一つで変わる。何でも面白がることが肝心だと気づきました」

 主婦たちへの働きかけや伝え方を工夫するうち、営業成績は大幅アップ。3年後、本社の営業サブリーダーに抜擢された。五十嵐さんがすごいのは、本社に着任後、「初めての部署で後輩たちにスキルで負けている。自分にしかない武器を持とう」と思い立ったことだ。一念発起して100万円のローンでパソコンを購入。独学で使い方を身につけて、部内で新たな仕事の進め方を提案した。

AERA  2014年7月7日号より抜粋