さまざまな現場で働き、いまの日本を支える外国人たち。
人手不足を補い、女性の社会進出を陰で助ける。
日本と自分の未来を見つめる彼らを追った。(編集部・野嶋剛)
海の見える高台にある横浜きっての高級住宅街。田村メルスィーさん(30)は、家に入るなり、2匹のゴールデンレトリバーに英語で声をかけた。
「Stay!」「Good,good」「Sit!」「Yes,you are very cute」
メルスィーさんはフィリピン・ミンドロ島の出身。勤務先のダイビングショップで日本人の夫と知り合った。2002年に結婚。横浜市内で子ども2人を育てる。フィリピン人の友人からメイドの仕事を紹介された。
派遣元の会社に登録し、ほぼ連日、横浜のどこかの家で掃除や洗濯をこなす。
フィリピン人メイドの「天性」は世界で評価される。シンガポール、香港、米国やヨーロッパでも「人気ブランド」だ。
●日本人より割安
都内の出版社に勤める女性は週1回、フィリピン人女性に家の掃除を頼む。仕事柄夜遅いことも多く、会社の先輩から「日本人より割安」と紹介された。
午前9時から約3時間半。家全体に掃除機をかけ、台所や風呂、トイレを掃除し、シーツを替え、アイロンをかける。この間、彼女は手を休めない。
メイドを頼む以前は夜中や週末に自分でやらざるを得ず、睡眠不足でイライラしていた。
「週末に子どもの学校の行事や習い事にも出かけられる。なにより自分自身が精神的にすごくラクになりました」
メイドのフィリピン人は外交官や外資系企業幹部などの家庭で働くビザで来日しているが、空いた時間に日本人家庭でも働く。時給1500円+交通費、というのが相場だという。
雇い主の帰国後にメイドだけ日本にとどまって個人のツテで働くこともあるが、不法就労になり、盗難や連絡が取れなくなるトラブルもあるという。
安倍政権は都市圏で「メイド特区」を認め、現在は制限しているビザ発給を緩和する構えだ。家事に縛られず、社会で能力を発揮してもらうためだ。
メルスィーさんが登録する家事代行サービス会社「シェヴ」(東京都港区)は、約100人の日本人配偶者のフィリピン人スタッフを抱え、「週1回3時間1万円」という統一プランで業界をリードしてきた。メイド需要の拡大を見込み、今後はミドルクラスの共働き夫婦向けの割安型も打ち出す構えだ。同社の柳基善社長は言う。
「働き手の保護や業界のルールが明確でないので、日本は世界の模範になるよう率先して健全化に取り組むべきです」
制度上「労働」を目的に来日する唯一の外国人は技能実習生だ。最長3年で中国や東南アジアの15万人が日本で働く。
●実習生は人柄重視
兵庫県川西市の大智鍛造所では、7年前からこの制度で中国人8人を雇い続ける。社長の大智靖志さんには忘れられない思い出がある。最初に迎えた中国人に健康診断でガンが見つかり、日本で手術を受けた。
「みんなで手分けして看病をして職場が一つになりました。実習生はとにかく人柄重視。協調性が大事です」(大智さん)
ただ、給与や長時間労働をめぐり、実習生と企業との間でトラブルが多いのも現実だ。
企業にとって実習生を抱える最大の動機はやはりコスト。不況で経営が苦しい企業ほど、残業代を渋り、給与から実費以上の家賃や食費などが引かれる。手取りが5万円以下で「時給数百円」になる悪質なケースも数多く報告されており、各地で訴訟や苦情が相次ぐ。