会社で組織を引っ張るリーダー。そのリーダー像に変化が訪れている。企業の人材育成を担うセルムの加藤友希は言う。
「環境変化が少なく、目指すゴールがわかりやすかった時代は、社長や役員、事業部長など超トップだけがリーダーシップを持てばよかった。だが、消費者ニーズが多様化し、事業スピードが速まっている今、現場にこそゴール設定や戦略立案のためのリーダーシップが重要」
この現場リーダーも、従来型では通用しない。
ギャグ商品「∞(むげん)プチプチ」のヒットで知られる、バンダイの高橋晋平(34)は、自称「ネクラリーダー」。カプセル玩具の開発現場を率いるが、コミュニケーション下手のため、部下には指示もアドバイスもしない。
社内には、部下の企画に助言をし、よりよい商品に改善していくリーダーも多いが、自分に自信がなく、「部下の企画の方がよいと思ってしまう」高橋には、助言ができなかった。あるとき、上司から「自分の背中を見せたらよいのでは」とアドバイスをもらった。
以降、リーダーながら「誰よりも企画を出す」ことにした。おもちゃ開発部門では、年間100本の企画を提出。採用本数は平均5本程度と多くなく、半年間ひとつも商品を出せないこともあった。
でもダメな上司を見せることにも、メリットがあると感じている。以前、高橋の上司がふざけた企画を提出し、怒られる姿を見て、フッとラクになったからだ。
「完璧な上司ばかりだとプレッシャーになる。ボツる上司は、安心感を与えられる」
いま従事するカプセル玩具は月30もの新商品を発表するため、ひとつでも多くの「通る企画」が求められる。高橋は、自分なりの「ギャグ商品」で相変わらず低打率をキープしているが、企画の数だけは部下の3倍を誇る。部下のひとりは言う。
「これまで、ボツにならない企画を出さなきゃ、と思っていた。でもダメだと思ってもいったん出してみて、みんなの意見を聞けばいいと思うようになった」
※AERA 2014年4月14日号より抜粋