散歩といえば中高年の趣味と思いきや、いま大学生がサークルをつくって夢中になっている。メンバーが集まって、会話を楽しみながら都内などで街歩きを楽しむという。
それにしてもなぜ、大学生が散歩サークルなのか。若者の消費活動に詳しい、JMR生活総合研究所の松田久一代表はこう見る。
「今の若者の消費トレンドとして、パフォーマンスがいいもの、お金をかけないものを選ぶ傾向がある。コミュニケーションに関心をもつ若者も多い。しかも、散歩はタダで友だちづくりができるので、スマートな消費と思えるのではないか」
確かに、散歩ほど金のかからない趣味はない。必要なのは交通費ぐらい。今回話を聞いた散歩サークルの学生たちも、一様にコスパの良さを強調した。
月刊誌「旅の手帖」の武田憲人(けんじん)編集長によれば、移動は、人間の本能だという。
「特に若者は理性より本能が勝つだけに、歩くことは自然の行為なのだと思います」
その本能そのままの散歩を行っているのが、東京大学の散歩サークル「Tokyo Skywalker」だ。普段は月に3回程度、週末に東京近郊を2~3時間ほど散歩し、月に1回程度はコンパもするなど、サークルらしく「軟派」な一面を持つ。ところが、年に1度、山手線1周約35キロの線路沿いを徹夜で歩く「山手線一周」を実施しているのだ。
もはや「散歩」というより「苦行」としか思えないが、「やはり普段の散歩より圧倒的に思い出に残ります」と、同サークル代表で工学部2年の北川峻一さんは涼しげに話す。
昨年11月2~3日の2日間、北川さんたちは20時間近くかけ山手線をひと回りした。午後2時、渋谷駅に集まった十数人が新宿方向に、山手線に沿って歩きだした。途中寄り道をし、ファストフード店やファミレスなどで休憩しながら、ひたすら歩いた。一団は多い時で24人に膨らみ、ゴールの渋谷まで4人が歩き切り、うち2人は女性だった。渋谷には午前9時30分に到着した。
北川さんは、一昨年は都合で途中リタイアしたため、歩き切ったのは今回が初めて。深夜2時の東京駅や、東京国際フォーラム、新橋駅前……。場所と時間の二つの軸で風景が移り変わることで、普段見られない東京の街のさまざまな顔を見ることができたという。
「景色も一歩ずつ変わるため飽きがこず、疲れも大したことはなかったので、一周をあきらめる理由がありませんでした」
※AERA 2014年3月10日号より抜粋