ロシア軍が、ウクライナ南部のクリミア半島の掌握を進めると伝えられる中、世界情勢は混沌の度合いを深めている。
クリミア半島は、住民の約6割がロシア系。ソ連時代の1954年にロシア共和国からウクライナ共和国に帰属替えされた経緯もある上、ロシアにとっては、黒海艦隊が拠点を置く戦略上の重要拠点だ。
しかし、2月に「親欧米」政権が誕生、クリミア半島を死守したいロシアのプーチン大統領は掌握に乗り出した──。
冷戦の危機が囁かれるほど、ロシアとアメリカの関係は悪化している。ロシア情勢に精通する元外務省主任分析官の佐藤優さんは行方は見えないとしつつ、「冷戦時代に逆戻りはしない。冷戦は、基本的には共産主義と反共主義というイデオロギー対立がベースにあった。現在はイデオロギーはない」
それでは、今回の対立をどう見ればいいのだろうか。
「帝国主義的な対立です。それが露骨に出てきているのです」
ソ連はかつて、制限主権論を唱えて侵略を正当化してきた。
「社会主義共同体の利益が脅かされる場合、個別国家の主権は制限されることがある」という理屈だ。今回は「ロシアの利益が脅かされる場合、近隣国家の主権は制限されることがある」との論理で、ウクライナに軍隊を展開しているという。でも、と佐藤さん。
「アメリカも制限主権論を使っている。アフガニスタンやイラクに対しては、アメリカ型の価値観になじまない国は、世界の利益を侵害するから、主権は制限されても構わないとしている。これも帝国主義国の論理です」
ロシアは地政学、アメリカは「自由と民主主義」の名の下に、それぞれ帝国主義化している。
翻って日本。安倍晋三首相は、「全当事者が自制と責任を」と話すなど、アメリカに代表される西側の動きとは一線を画しているように見える。
「幸い日本はバランスが取れている。G7との協調姿勢は取りつつも、日ロ交渉はきちんとやっていく。アメリカと距離を置いて、どちらかというとドイツに近い姿勢を採っている。今回のウクライナ新政権にも冷ややか。アメリカとの関係がある中、この姿勢をどこまで続けられるかがポイントです」
※AERA 2014年3月3日号より抜粋