企業家を目指す人材が増えた。資金も回り始め、億単位の資金調達も珍しくなくなった。その背景とは。

 今回のベンチャーブームを支えているのが、豊富な投資マネーであることは間違いない。あるVC(ベンチャーキャピタル)関係者が、

「1年前の稟議書と比べてみると、バリュエーション(事業や会社の評価額)が全く違う。数千万円単位の調達がやっとだったような会社が、何億円と調達できるようになっている」

 と言えば、創業してまだ数年の30代前半の起業家も、

「冷静に考えれば、自分の会社に億円単位の出資はおかしい。この程度の売り上げで、なんでこんなにお金を出してくれるんだろうとびっくりしています」

 なぜベンチャーに資金が回るようになったのか。要因は大きくわけて二つある。一つは、大企業によるベンチャー投資の活性化だ。法律面から起業をサポートするAZX総合法律事務所のパートナー弁護士、雨宮美季さん(38)は指摘する。

「大企業がリストラから新規事業投資へと舵を切り始めているが、特にITの分野は変化が速い。大企業が新たに手掛けようと思ってもノウハウもなく、スピード感についていけない。だから大企業がCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を通じてベンチャーと連携するという動きが、昨年くらいから活発化している」

 もう一つが、米国のシリコンバレーに存在する、一度起業した人などが後進を育てる「エコシステム」を日本でも根付かせたいという人が増えてきたことだ。「ビズシーク」を起業して楽天に売却した小澤隆生さん(41)や、「シリウステクノロジーズ」を起業してヤフーの買収に応じた宮澤弦さん(32)らエンゼル投資家は代表的な存在だが、佐俣アンリさん(29)のように同世代の起業家を同じ目線で支援していこうと、個人で資金を集める若手ベンチャーキャピタリストも出てきている。佐俣さんは12年5月にベンチャー投資ファンド「ANRI」を立ち上げ、これまでに14社に出資をした。

AERA  2014年3月3日号より抜粋